SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.

7.B高速動作1kA級超電導永久電流スイッチの
SMES接続試験に成功
__東北電力・岩手大学・フジクラ__


 東北電力、岩手大学、フジクラは、kA級の大電流スイッチングを磁界を利用して高速で行う「超電導永久電流スイッチ」を開発し、1 MJの貯蔵エネルギーを持つ超電導エネルギー貯蔵(SMES)装置との接続実証試験に成功した。高速動作が可能な大電流永久電流スイッチとして磁界方式を採用した世界で初めての報告である。

 永久電流スイッチは、ヒーターによってスイッチ巻き線の温度を上下させて超電導状態のオン・オフを行う「熱式」が現在のところ主流であるが、電力機器への応用には動作速度高速化と大電流容量化が大きな課題であった。今回開発した磁界式超電導スイッチは、熱式では難しいとされていたkA級の電流を、高速でスイッチングを可能とするものである。

 スイッチ用超電導線材には純Nbが銅中に分散した臨界磁界約1 Tの超電導材料を採用することにより磁界によるコントロールが容易になっている。 また、オフ時の高抵抗を確保するためにCu-30%Niマトリクス複合多心線構造になっている。大電流化には直径0.3 mmfの超電導線36本の撚り線化により対応している。スイッチ巻き線はNbTiの超電導パルスコイル内にセットされ、1 kA通電時には約0.2 Tにおいてオフ動作(ノーマル遷移)を生じ、1 Tにおいて25 Wのフルノーマル状態となる。

 スイッチ巻き線部は、外部制御磁界変化にともなう電磁誘導現象の影響を抑えるため、独自の多層無誘導巻き構造を開発し極めて小さなインダクタンスを持つスイッチ巻き線を実現した。外径290 mmφ、内径100 mmf、高さ410 mmのスイッチ巻き線には長さ1456 mの導体1本が21層にわたり巻き線されているが、多層無誘導巻き構造の開発により100 mHオーダーの極低インダクタンス実現に成功した。導体片端から巻き込むことが可能なため、たとえば従来から用いられているバイファイラー巻きと比較しても製造工程が極めて簡略化できる。この巻き線構造の開発は、さらに長尺導体の巻き線によりオフ抵抗値の高いスイッチを実現することに展望を示す結果といえる。また、磁界式スイッチは「熱はけ」の良い巻き線構造をとることが可能であり、今回のスイッチは交流用超電導コイルと同じように層間にFRPスペーサーを介在させ冷媒ダクトを確保している。このことが巻き線の優れた冷却性能を確保し、安定した大電流スイッチングを可能とした。

 いっぽう、磁界式永久電流スイッチでは「オフ」から「オン」への復帰動作において、スイッチの抵抗減少にともなってスイッチに流れ込む電流がジュール発熱を生じ、巻き線温度上昇による臨界電流の低下、または巻き線が臨界温度以下にならないことがオン復帰を困難とする原因であった。研究グループは、この過渡状態での電流挙動に着目し、導体が安定して超電導復帰できる条件を見いだすことで1 MJ級SMESとの接続実証試験に成功した。

 1 MJ級SMES接続実証試験では、今回開発した磁界式永久電流スイッチを動作させることで、電流値1 kAにおけるエネルギーの貯蔵、電流貯蔵モード運転、ならびに貯蔵エネルギーの取り出しに成功した。また、オフ時の動作速度として0.4秒の高速スイッチングを達成した。この動作速度は制御磁界用マグネットの制約によるもので、さらに高速な制御マグネットを用いれば、応答速度をより高速化することが可能である。電力応用にはさらなる大電流容量化に対応することが必要であるが、スケールアップによる10 kA級の大電流スイッチ実現に展望を示すものといえる。

 フジクラ材料技術研究所超電導研究部の定方伸行課長は、「今回の実証試験では、これまで知見の少なかった磁界式永久電流スイッチの大電流通電時の挙動の解明や、今後の課題をかなりのレベルまで明らかにできたと思う。磁界式スイッチの遷移挙動はフラックスフロー状態からフルノーマル状態までの広い範囲でのスイッチ抵抗変化と電流変化を総合的に考慮する必要があり、SEMSに組み込まれた場合はさらに条件が複雑になる。スイッチングにともなうスイッチ導体の発熱や冷却、急速な制御磁界変化やスイッチ電流変化による電磁誘導現象についてはさらに解析を進める必要があるが、磁界式スイッチの特長と言われている大電流容量化と高速動作の有用性を確認できた。」と述べている。

(HMJ)


写真1 スイッチ外観


写真1 実証試験装置