SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.


6. 陽子加速器用超伝導空胴で世界最高電場強度を達成
――原研、KEK――


 日本原子力研究所(原研)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は共同で陽子加速器用超伝導空胴の開発を進めており、入射部と終段部の空胴試作器を製作し世界最高の電場強度を達成したと新聞発表した。

 原研では、大出力核破砕中性子源を用いて物性、生物、原子核物理等の基礎科学研究や消滅処理等の原子力工学研究を展開するための中性子科学研究計画を提案しており、中性子源を駆動するための大強度陽子加速器(エネルギー1.5 GeV、平均電流5.3 mA)の開発を行っている。主加速部(0.1〜1.5 GeV)には超伝導加速器を採用する予定であり、そのための超伝導加速空胴の開発をKEKと共同で進めている。

 高周波を用いた加速器において、超伝導加速空胴は高加速効率、高加速電界を実現できる利点を有している。超伝導材料には高純度ニオブ(RRR100〜200)が用いられ、良好な性能(高加速電界、低表面抵抗)を実現するためには、欠陥がなく清浄な表面を形成することが重要である。加速粒子の速度に応じて種々の空胴形状が用いられるが、β(粒子の速度と光速の比)が0.3程度以下の重イオン加速器(原研タンデムブースター加速器)や、β=1の電子加速器(KEK-TRISTAN加速器)については超伝導空胴が実用化されているものの、β=0.4〜0.9の陽子加速器についてはまだ超伝導空胴の実用例はなく、日本、米国、欧州で開発が精力的に進められている。

 原研とKEKは、陽子用超伝導空胴の性能を実証するために入射部(β=0.5、陽子エネルギー145 MeV)及び終段部(β=0.886、陽子エネルギー1090 MeV)の単セル空胴試作器を製作し、表面処理を施した後に、空胴性能試験を行った。写真1に空胴試作器を示す。プレス成形、トリム、電子ビーム溶接等の製作工程は主にKEK工作センターにおいて行われた。表面処理工程ではバレル研磨(研磨厚〜100 mm)、電解研磨(研磨厚〜30 mm)、真空熱処理(750 ℃、3時間)、高圧水洗浄(超純水使用、8〜9 MPa、1.5時間)を行った。これらは、KEKで開発された超伝導空胴技術を適用したものである。空胴性能試験では4.2 Kと2.1 Kにおいて最大表面電場強度及びQ値を測定した(図1)。

 最大表面電場16 MV/mの目標値に対して、β=0.5空胴では4.2 Kにおいて24 MV/m、2.1 Kにおいて44 MV/m、β=0.886空胴では4.2 Kにおいて36 MV/m、2.1 Kにおいて47 MV/mを達成した。2.1 Kにおける電場強度は、陽子用超伝導空胴としては世界最高値である。また、Q値についても4.2 Kで2〜3×109、2.1 Kで2〜3×1010と良好な値を得た。

 中性子科学研究計画の責任者である原研中性子科学研究センター長 向山武彦氏は、「中性子科学研究計画において、加速器開発は最重要課題の一つである。今回の成果は超伝導空胴の開発で世界を一歩リードするものであるとともに、大強度陽子加速器の実現に見通しがついた。」と述べている。また、KEK研究主幹 山崎良成教授は、「日本はTRISTANにおいて大規模超伝導加速器システムを世界に先駆けて実現した。今回の成果は、陽子加速器の超伝導化においても世界をリードする端緒であるとともに、原研とKEKそれぞれの特色を生かした共同研究の成功例として、特筆すべきものである。」とコメントしている。なお、これらの成果は9月に米国で開催された超伝導応用会議(ASC98)においても報告されている。(のび太)



写真1 超伝導空洞試作器 β=0.5(左)、β=0.886(右)


図1 空洞性能試験結果