SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.

5.米国のHTS送電ケーブル開発プロジェクト、第2段階へ進展
_Pirelli社/ASC社チーム, Southwire社/IGC社チーム__


 米国では、現在高温超伝導体(HTS)を用いる送電ケーブル開発プロジェクトがPirelli Cable社が主導するチームとSouthwire社が主導するチームの2チームにより推進中であり、最近両チーム共に第2段階へ進むことが相継いで発表された。

_Pirelli社/ASC社チームの進捗状況_

 まず、第1のチーム(Pirelli Cables & Systems North America、ASC社、Detroit Edison、EPRI、 Lotepro)は、これまで5 m及び30 mのHTSケーブルを次々と試作・試験して来た。この度、3相120 mケーブルを製作し、Detroit Edisonの既存系統に設置するプロジェクトをDOEから5.5 Mドルで受託した。Pirelli Cables社がASC社からBi-2223テープの供給を受けて120 mケーブル(24 kV、2.4 kA)の製作を行い、Detroit Edison社が自社変電所地下への設置と24 kV系統との連結を担当する計画である。

 本ケーブルシステムは3相ケーブルより構成され、9本の銅ケーブルを代替する。もう1組(9本)の銅ケーブルは既存のままに留どめ、バックアップとする。即ち、本HTSケーブルを用いると、9本の銅ケーブル定格24 V、2.4 kAを維持しながら、全体の直径は1/3と大幅に縮小する。本ケーブルにより供給できる100 MVAの電力は、3万人の住民の需要を満たすのに充分である。HTSケーブルの容量は、従来ケーブルの3倍であるが、性能比較でいえば、9本の従来ケーブル中銅量が18,000ポンドに対し、HTSケーブル中の超伝導材料重量が250ポンドに過ぎない、というようにもっと劇的である。

 本ケーブル試作・試験計画の特徴の1つは、HTS ケーブルの"柔軟性"とケーブル接続技術の実証を実施項目に盛り込んでいることである。ASC社のJ. Howe副社長は、「Detroit市の変電所はHTSケーブルに優れた実験場を提供している。事故発生時あるいは保守時には、既存の銅ケーブルがバックアップ役を果たす。HTSケーブル仕様は既存システムの特性によって規定される。このプロジェクトは、HTSケーブルの実施例を示し、設置プロセスを検証するものである。当設置中には、4ヶ所の90度曲げ部があり、120 mケーブルの中央に1ヶ所の接続部が存在する。これは、現場における最初のHTSケーブル間の接続となるだろう。当ケーブルが布設される管路は、通常市街の地下で見出せるものと同じである、但し今回は変電所構内という違いはあるが。実際のケーブル設置は、主要な郊外布設と全く同様なものとなろう」と語った。本プロジェクトの実施スケジュールとしては、@今年末までにケーブル設計を行い、A1999年初ASC社がHTSテープの製造を開始する、B1999年央にPirelli社がケーブル製作を始め、C2000年第1四半期にケーブル設置し、D同年第2四半期中のケーブル最終調整を目指す予定という。

_Southwire社/IGC社チームの進捗状況_

 第2のチーム(Southwire社、IGC社、EURUS Southern社、Southern California Edison、 Georgia Transmission、ORNL、ANL)は、既に5 mのHTSケーブル(図)を試作・試験しており、この度3相30 mのHTSケーブル開発プロジェクトに関し27ヶ月/15 Mドルの共同開発契約をDOEのSPI (超伝導共同イニシャティブ)助成の下で締結した。

 Southwire社は、研究実費以上を負担し、オークリッジ国立研はDOEから1.1 Mドルの資金を受け取り、IGC社はHTSテープを開発・製造するため、1.5 Mドル以上を受託する予定である。当チームは、30 mの3相12.5 kV、1.25 kA定格のHTSケーブルを設計・製作の上、Southwire社変電所内に設置し、同社受電設備、線材工場、機械部門への供電実験を行う計画である。

 当プロジェクトの主な実施項目としては、
@ケーブル基本構造(図)の設計であるが、5 mケーブル製作時と同じくBi-2223テープを用いる場合と厚膜HTS導体など新しいHTSを採用する両ケースに適合できるケーブル構造を設計することである。もし厚膜導体が実用になれば、Bi系テープに比して、より低コストかつ高容量の代替案になり得る、そして製造速度アップ、既存の管路に適合し得るケーブル外径の縮小、AC損失の低減、柔軟性の増大等の有利性が得られる、ASouthwire社製誘電体"Cryoflex"の低温・高圧に於る性能を実証すること。(Pirelli社は従来の油浸絶縁紙/常温を採用しているが管路中に生ずる損失が大きい気味がある) 。当社はBNLから特別設計のテープ巻き機を購入し、それを改造して本ケーブルのテープ巻き(誘電体及びHTS)を行っている、Bケーブル関連技術(HTSケーブルの冷却技術、端末機器の電気的及び熱的絶縁技術、HTSケーブル接続技術他)を開発し、本試験で実証すること等が予定されている。実施スケジュールとしては、@1999年第1四半期からHTSケーブルの設計に着手し、A2000年中にケーブル製作・試験を行う、B2001年最終目標である120 m、12.5 kV1相ケーブルの製作を行う予定、とされている。

_HTS送電ケーブル開発の意義及び今後の展望_

 HTSケーブル開発の技術的および経済的効果について、両チームのトップは次のように語っている。Detroit Edison社の親会社であるDTE Energy社のR.Buckler社長は、「HTSケーブルに期待される役割は2つあるが、第1点は、新しい側溝を掘ることなしに、送電容量を増加しかつ環境及び効率改善を実現することにより、Detroit市のような過密都市中心の急伸する電力需要を満たすことである。第2点は、送電線布設における制約解消のニーズに応えられることである。最近の状勢は、新送電線路建設に対する住民の承認が益々困難になった為、地下ケーブル布設が一般化してきている。HTSケーブルの大容量化により、側溝建設コストが今迄より長距離の系統までペイできよう」と語った。また、HTSケーブルの経済性について、「我々は現在、メリット/コストモデルを定式化しつつあり、本試作・試験結果よりコスト構造を見出したい。HTSケーブルは、従来ケーブルには無い新しい代替案をもたらすだろう、結局全て物事はメリット/コスト水準に帰着しよう」とコメントした。

 一方、Southwire社のJ. Hesterlee副社長はHTSケーブル開発の意義について次のように語った。「HTSケーブルは、系統の電力密度を従来系統の10倍まで増量できるので、過密都市地域での困難な用地権の問題が解決する、そして比較的低電圧で稼働するので、最近高電圧送電に伴う厳格な技術的要求を軽減できる。また、HTSケーブルは低温で動作するので、ケーブル寿命が従来銅ケーブルの30年から100年に延びるだろう。以上のことから、HTSケーブルは、既存送電系統再更新の最有力候補と考えられる、既存系統の2200マイルは69〜161 kVの比較的低電圧で動作しているからである。」コスト問題については、「我々はHTSケーブルのコスト分析を未だやっていないが、厚膜導体のような新技術を取り入れ得る設計の柔軟性とHTS材料が将来安価になる一般的傾向を考慮するなら、HTSケーブルの商用生産は将来実現すると信じている。」とコメントした。(こゆるぎ)