SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.

4. 超高圧反応でクロム含有の新高温超伝導体
_____無機材研_____


 つくばにある無機材質研究所は、超高圧合成装置を活用することによって、新しい超伝導物質の探索・開発研究を精力的に推進していることで知られているが、最近クロムを含む新たな超伝導体系列を発見したことで注目を集めている。

 同研究所の室町英治総合研究官によると、この系列は6 GPa、1250-1350℃という高温・高圧下で安定に存在し、化学式は (Cu,Cr)Sr2Can-1CunO2n+3+xである。いわゆる電荷浴層の金属席が銅とクロムによってほぼ半分づつ占められている構造を持っており、よく使われる簡略記号で表せば、(Cu,Cr)-12(n-1)nで示される系列である。室町氏によると、クロム系超伝導体ファミリーの大きな特徴は、合成可能なnの範囲が著しく広いことである。現在までにn=1〜9 の相がバルクとして得られており、特にn=1〜6 についてはほぼ単相に近い試料が合成できる。こうした長周期の相が出現する系としては、水銀系Hg-12(n-1)n系)が有名であるが、クロム系は試料の質という点で水銀系を凌駕しており、超伝導特性とnの関係を詳細に検討するために、有力な物質系と考えられている。 n=1 及びn=8,9 の相は非超伝導相であり、Tcはn=3で最高値、103 Kを取るパラボラ型の変化を示す。nの増大に伴って、非超伝導−超伝導−非超伝導という「完全」なバリエーションが観測される系列の報告は無く、この点でもクロム系は注目すべき特徴を持っている。

 合成面での研究の展開と合わせて、最近、室町氏らのグループは、クロム系の臨界電流密度の評価に着手している。粒内Jcに関する予備的測定結果からすると、1Tの磁場印加下で、(Cu,Cr)-1223相は、Tc以下のほぼ全温度領域でYBCO系よりも高いJcを示している。不可逆磁場もYBCO系にはやや劣るものの、ビスマス系、水銀系等と比較すると格段に高い数値を与えている。こうした、良好なJc特性は、クロム系の電荷浴層の金属席が一部銅によって占められていることによって、その電子構造の異方性が小さくなっていることを示唆している。

 クロム系は高圧安定相という制約はあるものの、上に紹介したような他の系には見られない種々の特徴を有しており、TcやJcの決定要因を明らかにする上で極めて重要な物質系と思われる。

(HP)