SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.

13.第11回国際超電導シンポジウム(ISS '98)を開催


 ISS'98は国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)の主催で11月16日〜19日に福岡サンパレスで21ヵ国、570人が参加して開催された。発表件数は398件と昨年より増加し、内容も応用研究の発表が増え、高温超電導の実用化が徐々に始まりつつあることを感じさせた。

 本年から特別基調講演は地元の市民に公開することにし、より理解しやすい演題として科学技術全般及びSQUID製品の医療分野への応用を選定して次の3件の特別基調講演が行われた。

 まず米沢富美子教授(慶応大)が21世紀の科学技術の動向について講演し、20世紀初頭に量子論、相対性理論という世界観の変革を迫る物理学上の大きな発展があったように、これまで世紀の変わり目には科学技術の大きなパラダイム転機があったことを述べた。そして、21世紀には20世紀のデカルト的要素還元法を超える新しい科学研究の手法が現れ、物質の集合過程で高機能を持つ上位階層がどのような自己組織化により起こるか、といった生命や脳機能に係る研究が進展すると述べ、21世紀のキーワードである情報革命、エネルギー及び環境問題における超電導の役割を強調した。

 続いてA. I. Braginski教授(ユーリッヒ研究所)は、現在のSQUIDの特性、開発動向、航空機や高速道路等の建築物の非破壊検査への応用について欧州の状況を述べた。YBCO系センサーの磁気分解能は20ft/√Hzで低温超電導の特性に近づいた。今後の課題として特性向上はもちろん、経済性、センサーとしての社会的認知、市場の拡大を挙げた。

 小谷誠教授(東京電機大)は、SQUIDの医療応用の現状を紹介した。心臓や脳の診断法として、金属超電導体を用いた100チャンネル級のSQUIDの実用化が進んでおり、様々な刺激に応答する脳機能の研究やてんかん手術において威力を発揮している。一方、高温超電導SQUIDは32チャンネルのシステムがセンサー研で開発されているが、今後は心磁計としての実用化が期待されること、そして脳研究に於いてSQUIDは重要な研究手段になると述べた。

 続く基調講演では、次の点が注目を集めた。

 P. M. Grant博士(EPRI=米国電力研究所)は現在人類が直面するトリレンマ即ち経済成長率の維持、エネルギー消費及び環境保護の問題を解決するには、社会変革とともに賢く技術を使うことが重要であり、超電導技術は最もよい例を与えるものであろうと述べた。ただし、超電導応用の展開はトリレンマに対する社会的、政治的動きも依存するとした。例えば大型原子力発電が化石燃料発電に置き換わる。超電導は発電、貯蔵、変電等あらゆる電力機器に使われるが、長期的に見てエネルギー供給が小型発電所の分散配置で済むことになれば、超電導は変圧器や送電線等の限られた応用にとどまる。

 P. M. Grant博士はレイト ニュースでも講演し、基調講演のグローバルな話から一転して具体的な高温超電導ケーブルの敷設プロジェクトを紹介した。これは米国のDOEとピレリーケーブル、EPRI、ASC、DTE(デトロイトエジソン社)が2000年4月までにデトロイト市に130mの高温超電導ケーブル(24 kv、24 kA)を既設洞道に敷設して送電の実証試験を行う計画である。

 デモ的意味が強いとはいえ、応用への意気込みと進歩を感じさせ、関係者に大きな反響を呼んだ。

 R. H. Hammond教授(スタンフォード大)は米国における第二世代超電導導体(Y系)の長尺化の取り組み状況について報告し、DOEの設定したコスト目標10$/kA?m以下を目指して種々のプロセスが研究されていること、現時点では決定的な製法は見出されていないことを報告した。

 翌日から一般の口頭とポスターの発表があり、各分野で注目された発表は以下の通り。

 線材分野ではD. C. Larbalestier教授(ウィンスコンシン大)が高温超電導線材の特性を決定している要因と機構を整理し、今後の開発の指針を示した。また北口仁氏(金材研)はBi2212線材の特性をこれまでの3倍以上に高め実用的な段階に入ったことを印象づけた。

 バルク材料では生田博志助教授(名古屋大)がSm系において銀添加で2.2 T(77 K)の捕捉磁場を達成したこと、M. Muralidhar博士(ISTEC)等がRE-Ba-CuO系で微細Gd相を分散させて3 T(77 K)で6万A/cm2の臨界電流密度を達成したことを報告した。

 薄膜、接合分野では、デジタル応用に関して集積化に耐え得る、即ち特性のばらつきの小さな接合の作製技術を依然として模索する段階にある。

 システム応用は堀上徹氏(ISTEC)がシリコン単結晶引上炉用超電導マグネットについて報告し、DCロスの減少が今後の課題だが、8 インチ径シリコン単結晶製造装置への応用が強く期待されるとかたった。昨年から設置された標準化セッションでは、H. Piel教授(ウッパタール大)がYBCO薄膜は高周波デバイス用として有望であり、将来衛星通信、移動体通信に実用化されること、そのための課題として、基板の誘電損、コスト低減、冷却システムの信頼性向上が挙げられるとした。

 最後に田中昭二委員長が、次のISS'99(盛岡市で10月16日〜19日に開催)では更に進んだ成果をもって集おうと結んだ。

(ISS)