SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.

12.第7回国際超電導産業サミット(ISIS-7)


 第7回国際超電導産業サミット(ISIS-7)が、米国のCSAC(Council on Superconductivity for American Competitiveness)主催、ISTECとCONECTUS(CONECTUS: Consortium of Europian Companies Determined to Use Superconductivity)の共催で、米国ワシントンDCのWillard Intercontinental Hotelにおいて、1998年10月11日〜13日、日米欧の3極から約60名の参加者が出席して開催された。

 超電導サミットは、世界各国で開催されている超電導国際学術会議(ASC,EUCAS, M2S-HTSC,ISS等)とは性格を異にしており、日米欧3 極の産業界において超電導の商業化の促進に熱心なリーダーが中心となって、政府、大学の関係者とも連携を図りながら、超電導分野における国際協力を謳い、超電導科学及び技術進歩に関する情報を交換し、その技術の見通しを評価し、超電導産業の育成を図ることを目的としたユニークな国際会議である。ISTECの提唱で1992年5月、米国ワシントンDCにおいて第1回が開催されて以来、日本、欧州、米国の順で会議を開いている。

 ISIS-7では、「21世紀に向って壮大なる挑戦」を合言葉に、 1)超電導産業界の業績の確認とその文書化、2)各種の市場セクターのキーとなる近未来に開発が予定されている製品の調査と記録、3)21世紀の早い時期に、超電導産業を立ち上げるために克服しなければならない主要なチャレンジ事項の明確化、を会議の焦点とした。この目的のため、既に事業として定着している超電導応用分野や近い将来の事業化が有望視されている分野、即ち、電力、MRI、高エネルギー加速器、エレクトロニクス、プロセス産業(高磁界の応用)の5分野について、日、米、欧3極のエキスパートをパネリストに招いてパネル討論会を実施した。

 各分野での討論の概要は次のとおり。電力:超電導は、最初は楽観的で、次に悲観的になり、最近は、慎重かつ楽観的である。電力業界はリストラクチャーが進んでおり、超電導活用のチャンスである。既に、マイクロSMESやFCL等が商品化されており、HTS電力ケーブルやHTS変圧器も日米欧3極で実証されている。HTS変圧器は、21世紀初頭には設置の計画も進んでいる。MRI:現在、世界市場約2B$の規模の超電導産業に育っている。今後も引き続き最大規模の産業として期待されている分野であることが再確認された。患者に優しいオープンシステムが求められている。

 高エネルギー加速器:この分野は、大型加速器用磁石へのニーズをベースに超電導産業を立ち上げてきた最大の功労者であり,米国で計画されたSSC建設が中止になった後は、CERNのLHCの建設(2005年頃物理実験開始)が超電導産業界から特に注目されている。また、LHC以後の将来計画の大型加速器として、mmColliderやVLHC(Very Large Hadron Collider)等の計画にISIS-7に出席した産業界のリーダー達は大きな期待を寄せていた。エレクトロニクス:高温超電導産業の立ち上げの観点から最も期待を寄せられている産業分野であり、RFやマイクロ波通信、SQUID応用製品に熱い期待が寄せられていた。HTS技術はまた、超電導衛星を目指したプロジェクトに刺激を与えており、デジタル・エレクトロニクスがこのプロジェクトに大きな影響を及ぼすとの認識がなされている。最後のプロセス産業は、最も新しい超電導技術応用分野であり、超電導磁石にのみ可能な、広空間・高磁界応用を目指した分野であり、大面積Si単結晶引き上げ装置応用、食品の非破壊検査装置や製紙材料の磁気分離装置等で商品化に向けたチャレンジが各国で続けられていることが報告された。

 各分野でパネリスト、参加者の活発な討議が行われ、上に述べたような高温超電導技術への期待が述べられた。討論結果は、ISIS-7に参加した各国代表団の総意として共同コミュニケ(注)に纏められプレス発表も行われた。同コミュニケに記載された主要な結論は次の3点である。

 1)超電導産業界は高エネルギー物理分野での大型加速器用磁石へのニーズをベースに立ち上がってきた。この技術が、NMR、MRIの磁石技術に引き継がれ、約20億ドルのNMR、MRIのマーケットを形成するに至った。

 2)LTS技術、HTS技術、冷凍機システムの進歩に基づいた新しい技術は、プロト機器のデモンストレーションやヘルスケア、電力、エレクトロニクスと通信、プロセス産業、高エネルギー物理と材料科学の分野での初期製品を生み出した。新しい技術は、効率、生産性、繁栄の創出、地球規模の環境において多大な貢献をすることになるであろう。

 3)超電導技術は、10年前に確認された技術遂行目標の多くを達成した。次の数年間でHTS応用の商業化の為には、産業界の一層の投資、政府によるR&Dプログラムの継続、そして健全な地球規模の経済が必要とされている。

 なお、今回の会議で、高温超電導も着実に商業化にむけて前進していることが確認出来た点も大変大きな収穫であった。

 第8回会議ISIS-8は、ISTECがホストとなり、来年(1999年)10月12〜14日の期間、京都で開催することが了承された。

 (余談)会場となったホテルは、「プレジデントの邸宅」のニックネームを持ち、大統領の官邸として使用されたこともある。リンカーン大統領が就任前に滞在した折、連日ロビーでスタッフミーティングを行ったのが、「ロビーイスト」の語源の由来であるといわれている。日本とも関係が深く、江戸幕末、咸臨丸でアメリカに渡った、勝海舟の使節一行77名が宿泊したホテルである。随行員の日記によると、枕が見つからないのでベッドの下の白い陶器を枕代わりに使ったら、翌朝それが、『おまる』であったと知らされて、大爆笑した、等のエピソードがあるそうです。

 注:ISIS-7の共同コミュニケ:ISTEC Home Page (http://www.sendai.kopas.co.jp/ISTEC)の「サミット」で読むことが可能です。

(ISIS)