SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 5, Oct. 1998.

10.酸化物超伝導トランスを利用
       500 Aクラス電流源を試作
_九州工大・住友電工_


 九州工業大学の松下照男教授と小田部荘司助手は住友電気工業(株)と共同で、短尺の酸化物超伝導試料の交流通電損失測定などの電流源として使うことを目的とした500 Aクラスの小型超伝導トランスを試作することに成功した。今後の通電損失測定で実際に運用していく予定ということである。

 同グループでは数年前から交流電流による酸化物超伝導体の損失の測定を計画していたが、問題は電流値が大きくなるにつれて交流電源が大型化し、特定の機関でしか測定できないということであった。たとえばピーク値で300 Aの電流を流すことのできる交流電源装置は重量が1 t以上にもなり、価格は1000万円を超える。そこで九州工業大学では液体ヘリウム中で動作するNb-Tiを用いた超伝導トランスの製作体験をもとに、酸化物超伝導体を用いた電流トランスを製作することにした。この場合、二次側の巻き数を極端に小さくして、降圧する代わりに電流値を大幅に増幅するようにしている。実際に使われている例としては鹿児島大学 住吉教授のグループの装置が有名である。

 超伝導トランスの一次側は銅線であり、直径がおよそ50 mmのボビンに300回巻いてある。一方、その上に二次側巻線としてBi-2223銀シース多芯テープ線を用い、10本を並列に接続して1.5回巻いている。なおボビン径は超伝導線が劣化しない歪みの範囲により決定された。また磁気的な結合を強めるために普通のトランスに使われる鉄芯を用いている。支持材はほとんどが布入りベーク材であり、接着にはスタイキャストを使っている。全体の大きさは90 mm×110 mm ×150 mmほどであり、重量は3.4 kgである・図参照)。この場合使用した超伝導テープ線材は全てで約5 mにすぎない。

 まず、トランスそのものの試験は二次側を銅板で短絡し、液体窒素中で行われた。周波数は35から200 Hzであり、一次側の電流はおよそ6 A(ピーク値)まで流したが、このとき二次側にはおよそ100倍の電流流れ、最大の電流値は35 Hzのときに565 A(ピーク値)に達した。電流の検出にはロゴスキーコイルを用いている。この周波数領域ではFFTアナライザーでも目立った高調波は観測されなかったという。これよりこの超伝導トランスを発振器および市販されている民生用ステレオアンプと一緒に用いて簡便に500 Aまで交流電流を流せることが可能になった。そこで同グループでは早速Y系溶融法酸化物超伝導体の交流通電損失の測定に用い、試料には299 A(ピーク値)まで通電した。その結果、得られた損失がSQUIDによる磁化測定から予測される値にほぼ一致することを見いだし、装置がきちんと動作しているのを確認した。これまで10回程度の実験を繰り返しているが、線材の劣化によるトランスの性能劣化は認められないという。

 この研究成果は、この秋の低温工学・超電導学会(10月、山口市)と11th International Symposium on Superconductivity (ISS'98) (11月、福岡市)で発表される予定である。松下教授は今回の試作の結果について次のようにコメントしている。

 「今回は初めての試作であり、まだまだ改善の余地がある。例えば、単純に並列に接続するテープ線の増やすなどして容易に電流容量を大きくできるし、もし巻き線などの工夫でもっとコンパクトにできればっと小さなアンプでも駆動できるようになる。そしてもし冷凍機を用いてもっと低温で運転できれば一層の大電流化が可能になるだろう。」また小田部助手は「酸化物超伝導線を使ってコイルを巻くのは初めてだったので、予定した結果が出たときには安心した。今後もアイデアのある酸化物超伝導体の応用を考えていきたい。」と語った。

(えそ)



図 超伝導トランスの外観(単位mm)