抵抗発生型YBCO薄膜限流素子は大電流によりYBCO薄膜が超電導状態から常電導状態へ転移する現象を利用しており、限流時には大きな熱衝撃が基板に加わる。そのためにYBCO薄膜だけを用いて薄膜線路を作製すると、限流初期に局所的な温度上昇部分(ホットスポット)が発生し素子が損傷してしまう。これを防ぐために今まではYBCO薄膜の上に金属薄膜を作製し、薄膜線路の抵抗を小さくしていた。しかし、素子が完全に常電導状態になった時の発熱量を抑えるため、素子の長さあたりの印加電圧を大きくすることができなかった。一方、新構造の素子では限流時に電流が金属薄膜に分流し、限流初期の熱的負荷をYBCO薄膜よりも広い面積に分散させることができる。これによりホットスポットを発生させることなくYBCO薄膜線路の発生抵抗を増加でき、素子の長さ当たりの印加電圧を大きくすることが可能となった。
実際に作製した素子は幅10 mm、長さ100 mmのLaAlO3基板上にレーザー蒸着法を用いて作製した厚さ1 mmのYBCO薄膜を、幅30 mm、長さ100 mmのAlN基板上に作製した金属薄膜の上に置き、10 mm間隔でYBCO薄膜と金属薄膜の間を並列に接続した構造をしている(図1)。限流試験の結果よりこの構造にすることで、単位長さ当たりの印加電圧を今までより3倍以上大きくできることを確認した。
また、このような素子を2つ並列に接続したものを3組、直列に接続した素子を用い直・並列化による大容量化も検討した(図2)。連続通電試験の結果、この素子の電流容量は100 A(実効値)と1素子の2倍となり、また電源電圧260 V(実効値)で短絡時に1.8 kA(ピーク)の電流が2サイクル流れる試験回路で限流試験を行った結果、6つの素子すべてが動作し600 A(ピーク)以下に抑制することを確認した(図3)。このとき素子に印可された電圧は約300 V(ピーク)であり、素子容量は21 kVAであった。この試験より薄膜限流素子を直・並列化することにより容量を増大できることを実証できたといえる。
東芝基礎研究所の芳野久士研究主幹は「新構造の限流素子はYBCO薄膜のみを用いて作製した従来の素子に比べ、YBCO薄膜の利用効率を大幅に向上できる。限流素子用YBCO薄膜作製に酸化物基板を用いるとコストがかさむという見方もあるが、この構造の素子とすることにより、コスト削減が図れる」とコメントしている。
(KYA)
図2 限流素子の外観写真(6つの素子を使用)
図3 2並列・3直列した素子の限流特性