SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 5, Oct. 1998.

7. 超伝導マグネット鉄鋼製造用電磁ブレーキへの応用
_(財)金属系材料研究開発センター_


 鉄鋼業界における連続鋳造プロセスにおいて、高生産性・高能率化を維持し、需要家からの鉄鋼製品の高品質化のニーズを満足しつつ、連続鋳造―熱間圧延工程の直結化による大幅な省エネルギー化を達成するためには、連鋳鋳片の無欠陥化、無手入れ化を達成しうる画期的な新技術の開発が期待されている。

 こうした要求に応えるため、金属系材料研究開発センター(JRCM)では平成7年度から鉄鋼を中心とした11社の参加のもとに、通商産業省からの補助を受けて「エネルギー使用合理化金属製造プロセス開発」の国家プロジェクト研究を実施している。

 川崎製鉄(株)は上記プロジェクト内の要素技術研究のひとつである、「超電導磁石を用いた鋳型内溶鋼流動制御の研究」を担当している。

 鋳型内の溶鋼流動は鋳片品質と密接に関係しており、連続鋳造機の生産性を向上させるため、鋳造速度を上げると、鋳型内の溶鋼流動が激しくなり、溶鋼湯面を被覆するモールドパウダーの巻き込みや介在物の潜り込み等によって、鋳片表面および内部欠陥が増大する。この対策として、従来常電導磁石を用いた静磁場による溶鋼流動制御(電磁ブレーキ)が適用され効果をあげている。

 しかしながら、常電導磁石では、鉄芯の磁気飽和と銅管の冷却限界により、実プロセスで印加できる磁束密度は最大0.3テスラ程度が限界となる。

 本研究の目的は、常電導磁石では得られない強磁場下(1テスラ以上)における鋳型内の溶鋼流動制御の可能性を解明し、高速鋳造時の鋳片品質への効果を見極めることにある。超電導磁石を利用することにより、強磁場を実現できること、また電力使用量を常電導磁石の1/10〜1/20以下に低減できること等の利点があげられる。

 研究開発のポイントは前述した強磁場下における溶鋼流動制御特性の把握の他に、設備的には如何に大空間強磁場型の超電導磁石を設計し、実機鋳型に収納するかにある。特に連続鋳造等の製鋼プロセスに超電導磁石を適用する場合、容積的にコンパクトでかつメインテナンス性の優れるものが要求される。さらに、耐塵性、耐振性、耐湿性、耐高温性等の機械的、環境的な対策および磁場漏洩対策が必要とされる。

 現在までに連続鋳造用鋳型を模した縮尺1/2〜1/3の水銀モデルおよび大空間強磁場型の超電導磁石を製作し、電磁場強度にして最大1.5 Tまでの流動制御実験を行い、通常の2倍の鋳造速度のもとでも表面及び短辺下降流速の平均値および変動値が大幅に低減できることが確認された。さらに平成10年度から12年度は試験連鋳機を用いた実溶鋼の鋳造実験により実機化の検証が行われる予定である。

 (財)金属系材料研究開発センターの別所永康主任研究員は「今後、研究開発は実溶鋼実験ということで技術ハードルはますます高くなる。しかしプロジェクトメンバーの<智恵>を結集し、是非とも成功させたい。鉄鋼分野で超伝導磁石の利用が可能になれば、当産業界のプロセス開発の裾野が大きく広がる。乞う、御期待!」と語っている。

(NB)