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SUPERCONDUCTi Vi TY COMMUNi CATi ONS, Vol. 7, No. 5, Oct. 1998.

4.直冷式1 T酸化物超伝導パルスコイルの開発
____ 九州大学 ____


 九州大学工学部附属超伝導科学研究センター(船木和夫教授、岩熊成卓助教授)、九州電力株式会社、富士電機株式会社は共同で、Bi2223超電導多芯線を用いて、冷媒を使用せずに冷凍機で直接冷却する方式の超電導パルスコイルを試作し、温度40 Kで、振幅1 T、周波数1 Hzの三角波変動磁界を連続して発生させることに成功した。これは、低温及び高温超電導材料を含めて、直冷式超電導コイルとしては初めてパルスコイルとして設計されたものであり、直冷式超電導コイルの連続パルス運転は世界初の実績である。

 従来、超電導技術の一般産業への応用を阻んできた最大の要因は、取扱が煩雑でその供給設備とともに高価な液体ヘリウムを超電導コイルの冷媒として必要としたことにある。近年、臨界温度が高い酸化物超電導線材の開発が進むにつれ、超電導コイルの動作温度を、比較的安価な市販の冷凍機を用いても冷却可能な温度領域、すなわち数十Kと高く設定できるようになった。すでに、線材メーカーを中心としてBi2223、Bi2212線材を用いた直冷式超電導コイルもいくつか試作されている。しかしながら、これらはいずれも運転中に交流損失を発生しない(発熱を生じない)直流コイルであり、変動磁界を発生するパルスコイルとして開発されたものはなかった。共同研究グループでは、超電導コイルが発生しうる高磁界・高速変動磁界を冷媒を用いず手軽に(スイッチ一つでON/OFF)、しかも安価に活用できるように、直冷式の超電導パルスコイルの研究開発に取り組んできた。

 将来の応用目標としては、まず、電力系統安定化用SMESや、製鉄所の連続溶鋼鋳造システムにおける電磁撹拌や電磁ブレーキ、さらには磁気浮上、磁気分離等が考えられる。共同研究グループでは、メインテナンスフリーにして手軽に高磁界・変動磁界が利用できる安価な超電導コイルシステムの開発により、さらに超電導コイルの一般産業界での新たな需要を掘り起こし、超電導技術を広く普及させることができればと今後の進展に期待をよせている。

 現在、九州電力では九州大学等との共同研究により開発した電力系統安定化用SMESの実系統連携試験を福岡市西区の今宿変電所において行っているが、現状の装置はNbTi コイルで構成されており、動作温度は4.2 Kである。今回の開発研究は、電力系統安定化用SMESの将来の実用化を視野に入れ、超電導コイルの特性改善(動作温度の上昇に伴う安定性の向上)、冷却装置を含めたシステムの設備コストの低減(液体ヘリウムの供給装置に対し冷凍機は破格に安価)、及び運転効率の改善(動作温度の上昇に伴う冷却効率の向上)を目指した基礎研究でもある。

 直冷式超電導コイルでパルス駆動を行うには、(1)内部で交流損失として発生した熱を伝導冷却により外部に取り出すこと、及び、(2)発熱量(交流損失)自体を削減することや(3)超電導線材の電流容量を増大させること等が要求される。共同研究グループでは、ほぼ2年半をかけてこれらの課題に取り組み、解決策を見い出した。具体的には、(1)のために絶縁材料である窒化アルミをヒートドレインとして採用し、また(2)(3)のためにビスマス系酸化物超電導線材により構成した層間転位並列導体を採用した。

 コイルは、厚さ0.25 mm、幅3.5 mmのビスマス2223銀合金母材超電導多芯線を素線として、これを4本重ねた並列導体をソレノイドコイル状に16層巻いたものである。コイル諸元を表1に、外観を図1に示している。素線は、電流分流を均等にし交流損失を低減するために、フォルマール皮覆で絶縁され、かつ、合計15箇所で転位(素線の配置を入れ替える)されている。転位の方法としては、液体窒素冷却500 KVA酸化物超電導変圧器試作の際に採用した各層内において数カ所で転位を施す層内転位ではなく、導体が層間を渉るときにのみ素線の配置を入れ替える層間転位を採用した。これにより、巻線前の大電流容量化のための導体構成は必要なく、素線のみでの巻線を可能としている。また、4本の並列導体とすることにより電流容量も241 Aと動作温度40 Kとしては大きなものとなっている。冷凍機としては冷却効率の高いシングルステージ方式で40 Kで30 Wの冷却能力を持つGM冷凍機を採用した。パルス磁界発生にともなって巻線内で誘起される交流損失の冷却のために、ヒートドレインとして厚さ0.6 mm、幅6 mm、長さ175 mmの窒化アルミのプレートを各層ごとに18枚、計300枚ほど巻線内に配し、またヒートドレインと超電導線材との熱接触抵抗を低減するために高熱伝導率のエポキシ樹脂をその間に塗布した。

 動作試験の結果、冷凍機により冷却を開始して18時間後にコイルはほぼ均一に30 Kまで冷却された。コイルの動作試験としては、i )直流運転と、i i )立上げ、立下げ時間0.5秒の0→1 T→0の三角波の1 Hz連続運転、及びi i i )同じく1 Tまでの三角波で立上げ、立下げ時間が0.1秒で0.8秒の休止時間を持つ高速パルスの1 Hz連続運転の三種類の試験を行った。コイルは241 A通電時に中心で1 Tの磁界を発生するが、直流、パルス運転時ともに1 Tまで安定に動作した。i i )の1 T、1 Hzの三角波連続パルス定格運転では4時間半ほどで最高温度40.5 K、巻線内の温度差2 Kになったところでコイル温度は安定した。この定格運転時の交流損失は電気的方法で測定した結果10.6 Wであり、また各部の温度から算定した総熱侵入量は13 Wとなり合計24 W の熱負荷であった。冷凍機ヘッドの温度は32.7 Kであり、冷凍機の公称冷却能力30 W/40 Kと照らし合わせても妥当な熱収支であった。また、i i i )のモードでも最高温度41 Kでコイル内温度は平衡状態となり、連続運転が可能なことを確認した。

 共同研究グループでは、今回の成果を踏まえ、「現状の酸化物超電導線材は多芯線構造ではあるが、ツイストが施されておらず、交流損失は大きい。将来、フィラメントが電磁気的にも分離した文字通りの多芯線特性を持つ酸化物超電導線材が開発されれば、この冷却構造は大型パルスコイルへも適用可能である。また、酸化物超電導線材の特性が向上してさらに高温領域で利用できるようになると、パルスコイルシステムの基本設計は原理的に変える必要はなく、より簡便な冷凍機への代替のみで対応できるものと考えている。」としている。

(KF)

表1 内径(クリアボア)52mm(40mm)
   外径      111mm
   高さ      120mm
   導体(長さ)  Bi2223 4本並列導体(123m)
   層数      16
   動作温度    40 K
   磁界      1 T
   動作温度    241 A
   インダクタンス 6.89mH
   蓄積エネルギー 220 J
   周波数     1 Hz( 三角波0→1→0 T)


図1 1 T酸化物超電導パルスコイル