SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 5, Oct. 1998.

17. 超伝導応用会議(ASC'98)会議報告


 1998年9月13日より18日の6日間にわたり、1998 Applied SuperconductivityConference(超伝導応用会議)がMarriott's Desert Springs Resort( 米国カリフォルニア州)にて開催された。本会議は、Brookhaven国立研究所における1966年の第1回以来、2年ごとに米国内各地で開催されているもので、エレクトロニクス、大型機器応用、材料の3つのトピカルセッションに分けて、超伝導の応用に関する最新の研究・開発状況について参加者が最新の研究成果発表と意見交換をすることを目的としたものである。ASCはとくに特定の学会を母体組織とはしておらずまた国際会議とは名前がついていないものの、本年度は38ヶ国から約1,500人(日本からは291名)の参加者があり、盛況であった。

 会議は4つのPlenary Talks(加速器応用、エレクトロニクス、材料、冷凍機)に加えて前記3つのセッションがパラレルで開かれた。それぞれのセッションの参加者に寄稿して頂いた各報告を以下に掲載する。高温超伝導が発見されて12年が経過したが、最近ではその本格的実用化がやっと視界に入って来た。ASCでは、高温に限らず低温型の金属・合金系従来材料やそれを応用したシステムも議論の対象にしていることはもちろんであるが、今回の会議では"Superconductivity Coming to Market"(超伝導がいよいよ市場に)との、高温応用を意識した標語が付されていた。次回の会議は、西暦2,000年9月にVirginia州Virginia Beachで開催される予定であるが、どのような標語となるか興味深い。(Super Glasses)

1)材料関係でのトピックス

 可能な限りの情報収集を行ったが、この原稿を執筆する時点では、まだ全ての論文が手元に届いている訳ではない。従って、筆者の興味の範囲内で、知り得た主なトピックスを以下に記載する。しかし、記載内容には誤りが含まれている場合があることご理解戴きたい。また、紙面が限られているので、外国の研究者の発表を中心にまとめる。(Plenary Sessionから)

<Prof. Freyhardt(ドイツゲッチンゲン大学)>

 超電導パワー応用に関し、金属系と酸化物系を幅広くレビューした。超電導には金属系と高温があるが、両者は開発フェーズが全く違うものであるから、きちんと分けて議論する必要があること述べ、超電導発見から現在までの開発の進歩を総括した。

 まず、金属系超電導体を応用したシステム開発における最近の顕著な成果として、ATLAS Detector, LHC Dipole Magnet, Fusion Magnet, 高磁場NMRなどをあげた。次に、高温超電導体の主な成果と応用の可能性を、バルク、Bi系、次世代線材の順に報告。

バルク体/材料では、

  -液体水素クライオベッセルの磁気浮上による熱侵入の低減」(次世代の燃料である水素エネルギーサイクルで有効と指摘)
-ヒステリシスモータのロータリング
-大容量電流リード等を紹介した。

また、銀シース線材については、

  -ASC社での高Jc長尺線材の開発(1km級、Jc=1〜3万A/cm2)が順調であること、
  -ABB/ピレリによる630kVA超電導トランスの実証等、応用機器の開発進行中、
  -日立によるROSAT線材はBiの異方性の解決に有望であること。
  -住友電工のHTSマグネットは7T級の実用域ににまで達したこと。

等を紹介した。更に、次世代線材については

  -金属基板CUTE/RABitとIBAT/ISDによる、長尺化とコスト低減の努力が継続中。
  -住友電工と東電はISD法で1m長のケーブルを製作。
-Siemensは限流器を製作中。
  -また、ドイツを中心に、次世代線材を細いメタルパイプ表面に成膜して集合ケーブル導体化する構想を検討し、要素開発を実施中であることを紹介、等々。最後に、「超電導は21世紀に必ず大きな産業に育つと確信している。そのために、今こそきちんとした技術開発を進める必要がある」と述べ、講演を締めくくった。(以下は、一般講演から抜粋)

<Bi-2223関係>

 Oxfordは高温超電導体を用いた人体用オープンMRI装置をSiemensと共同で開発したと発表した。発生磁場は0.2 Tで鉄心がついている。2つのBi-2223ダブルパンケーキが冷凍機で伝導冷却されており、液体ヘリウムは使わない。コイルの一方はNordic Superconductor(NKT)、もう一つはVacuum Schmeltze(VAC)の線材が用いられている。また、これまで、Siemens、ピレリとBICCの3社は高温超電導送電ケーブルの開発を行っていたが、SiemensのBi-2223系高温超電導ケーブル開発部門はイタリアのピレリ社に売却されたらしい。EUにおけるケーブル開発は、今後ピレリが中心になる。NKTは強化銀シース線材で長さ1100 mの線材を製作、28 AのIcを得たと報告。長さを考慮すれば、強化銀シース線材として、これまでの最高値である。また、Siemens/VACのグループは初めて数10km級の量産試作を実施し、Jcは7 kA/cm2と報告した。一方、American Superconductor(ASC)社の短尺線材のJcの最高値は73800 A/cm2まで向上、伝導冷却マグネットは7.25 T発生し、住友電工と肩を並べた模様。

<Bi-2212関係>

 Intermagnetics General Co(IGC)は直径0.8 mmのBi-2212/Ag多芯線材のJcが5000 A/mm2(4.2K,自己磁場)に達したと報告した。更に、銀テープ上にBi-2212を表面コートしたテープ線をR&Wでソレノイド巻きして強磁場用内層マグネットを製作。19 Tのバックアップ磁場で1.49 Tを得ている。TCSUHのMengはNi基板上にバッファ層を設け、Bi-2212を2ステップのスプレー/プレス法で成膜し、500,000 A/cm2(4.2 K,0 T)、300,000 A/cm2(4.2 K,9 T)を報告した。ヘキストのBi-2212バルク材料研究チームはAventisというヘキスト傘下のグループ企業に移り、高温超電導電流リードと粉末の供給を継続。(ヘキスト本体は現在事業の再構築を推進中で、ライフサイエンス分野に特化するらしい。)また、電流リードに関連する発表では、LHC向けの13 kA級電流リードの開発に関する報告が集中。殆どの発表で、13 kA&0.13 W/kAの目標をクリアしている。

<次世代線材関係>

 論文の詳細を分析しないとはっきりしたことは言えないが、個人的印象ではRABiTやCUTEなどの配向金属基板を利用した次世代線材開発に関する発表の件数が、IBAT/ISD系の配向バッファ層系の発表件数を凌駕したように感じた。両者のJc性能は甲乙を付け難く、今後、低コスト化、長尺化を視野に入れた開発競争が激化していくと考えられる。なお、RABiTの最新のJcは10 cm長で200,000、MAXは16.7 A、270,000 A/cm2と報告された。

 最後に、Rockwell Science CenterのP.E.D.Morgan博士から、今回の学会について、材料研究者としての大変厳しい感想をご紹介しようと思う。「自分はセラミックスの専門家であり、超電導は専門外だが、超電導の会議には時々参加させてもらっている。いつも不思議に思うのは、このCommunityがすごく小さいこと、そして、多くの材料研究者が関連する他の学会の文献を良く読んでいないことである。「高温超電導材料の世界での材料学上の新しい発見」でも、超電導以外の分野では古くから知られていることであることを知ってほしい。あなた方は、Communityに安住せず、もっと外に出て、議論を深めてはどうですか?

 "The ceramic concepts of HTSC is like an island ecology, where flightless birds and ancient reptiles can survive without the stronger competition from the more robust ceramic concepts of the mainland - which themselves are rapidly evolving".Very rarely is the conventional ceramics(or mineral etc.) literature cited in generally poorly peer-reviewed HTSC work - in fact, to my knowledge, there are no new "ceramic" phenomena that have been observed in HTSC (in contrast with the undoubtedly new physics). (Clark Kent)

2)Large scale関係でのトピックス

  Large scaleの分野での発表論文は約440件で会議全体の約1/3を占め、低温、高温超電導の導体、コイル技術、及びその応用などをカバーしていた。右にその分類を示す。 低温超電導の分野では、国際熱核融合試験炉(ITER)プロジェクト関係、加速器用超電導コイル関係の論文が多かった。また、日本からのSuperGMプロジェクトによる7万kW級発電機の試験結果の発表は、電力機器応用の関心が高温超電導に移り、小規模機の開発報告が多い中、本格的な超電導応用開発機器の試験結果であり、さすがに迫力と説得力があった。

 高温超電導機器としては、電力ケーブル、限流器、モータ/発電機、変圧器、磁気浮上・磁気軸受、フライホイールエネルギー貯蔵、SMES用マグネットなど多種多様であり、欧米での各プロジェクトも順調に推移しているようであった。電力ケーブルでは米国ORNL(5 m,1.2 kA)やドイツSiemens(10 m,5 kA)が,限流器ではドイツSiemens(100 kVA,135 Arms)、モータでは米国ASC/Rockwell(1000HP製作中)、変圧器では米国ORNL(1MVA,13.8 kV/6.9 kV,25 K)が特に大型化へ向けて着実に開発が進められている。また、開放型MRIに関するドイツSiemensとOxford Instrumentsチームの発表(0.2 T HTS coils + 20 K GM cooler)も興味深い。

 この分野で活躍する3名の方にASC98の印象を尋ねた。

 横浜国立大学の塚本修巳教授:「従来,Large scale関係において高温超電導関係の論文が目を引いたが、今回は低温超電導関係の論文も充実しており印象深かった。他に代替がなく、超電導としての特長が最もよく生かされる核融合実験装置、高エネルギー物理実験装置の分野では、やはり低温超電導を用いるしかないという現状を反映していると考えることができる。特に原研と東芝が開発したインコロイをコンジットとする強制冷却Nb3Sn大型導体を用いたセンターソレノイドコイルの完成は特筆すべきである。熱膨張率がNb3Sn導体とほぼ同じでコンジット導体として優れるインコロイのもつ、熱処理過程でのひび割れの問題を遂に解決した。一方、電力ケーブルに関連して、高温超電導体の交流損失測定が交流磁界印加・交流通電時に可能となったこと、および多層導体中の電流分布の均一化に実験的に成功した(ドイツSiemens,東京電力/住友電工)ことは大きな成果である。しかし,交流磁界印加時の交流損失がかなり大きくなることがわかり、今後何らかの対策が必要である。また、SMESの実用化の要点は低コスト化であるが、日米でコスト見積に差違がかなりあり、この違いを詰めることにより日本におけるコスト高の問題が見えてくるかもしれない。」

 早稲田大学の石山敦士教授:「核融合や加速器などの大型装置のプロジェクトを除き、研究・開発者の興味は高温超電導体応用に大きくシフトした。特に交流応用について言うと、交流損失などに関する基礎的な研究から応用機器に至るまでのほとんどが高温超電導関連の報告であった。報告数の多かった高温超電導応用としては、限流器、電流リード、磁気浮上などが挙げられる。限流器についてはポスター・オーラル合わせて30件ほどの発表があり、動作原理、使用する超電導材料など多種多彩で、関心の高さがうかがえた。それだけ駒の数が増え研究の幅が広がったということで歓迎すべきことであるが,逆に今後の研究開発の方向性や実用化時期についての見通しが立てにくくなった。我が国の高温超電導関連の応用研究は、超電導材料・線材の電磁的特性や安定性の評価などの基礎研究をはじめとして、高温超電導コイルの試作から電力応用機器に至るまで他国に比べ最も幅広い範囲で行われていると言えるが、唯一、高温超電導モータ/発電機については海外からの報告例が目立った。」

 住友電工の大松一也氏:「ケーブル用導体はSiemensを中心としたヨーロッパ勢が着実に開発を進めており、メーカーからしっかりした発表が多く見られ、導体、システム、絶縁など,ケーブルシステムとして総合的に開発がなされている様子が伺えた。一方、米国勢はオークリッジ国立研究所からケーブル導体の数件の発表があったが、メーカーが国立研究所の陰に隠れてあまりシステマチックに研究開発がなされていない印象をもった。変圧器や限流器などは、米国もヨーロッパ勢も国主導のプロジェクトの中で開発が進められているが、適用のための明確なビジョン(効率向上,重量低減,安全性,等)が示されており、日本においてユーザ側の反応が少ない現状から比較すると、羨ましい限りである。また、加速器用コイルへも高温超電導の応用が検討され、ビスマス系2212線材を用いたラザフォード型導体やパイプトロン用導体が試作されている事実を知り、米国のこの分野での積極性を認識した。」(Dr. Magnet)

3)エレクトロニクス関連

 エレクトロニクス関連では580件程度の発表がなされた。これらのうち、回路応用と回路プロセス、マイクロ波応用、SQUID応用、検出器応用について報告する。発表件数があまりに膨大なため、筆者等の個人的興味に偏っている点があることをお断りしておく。

−回路応用と回路プロセス−

 低温超伝導(LTS)回路プロセスでは、1.5 mm角、1s=0.7%のNb/AlOx/Nb接合(US Berkeley) 、配線間のショート、オープンのない64 kメモリセルアレイ(NEC)等完成度の高い技術が発表された。また、臨界電流密度250kA/cm2の接合を用いたT flip-flop回路で、770GHzの超伝導回路におけるスピード記録が達成された(ニューヨーク州立大(SUNY)) 。LTS回路では、1850接合のAD converter(SUNY)、1670接合のautocorrelator(SUNY)、4300接合のring network(NEC)等 数千ゲート規模の回路の完全動作が次々に報告された。また、16´16 digital switchチップと信号増幅用チップを実装したMCM(Multi Chip Module)の1GHz動作(TRW+UC Berkeley)、異なるHeデュワー中にある超伝導回路間の2Gbpsデータ転送(Northrop Grumman)、超伝導ネットワークチップを介したパソコン間データ転送(NEC)等、実用化に向けての着実な進歩が見られた。さらに、HTMT(Hybrid Technology Multi-Threaded architecture)に代表される超伝導回路を有効に利用するためのアーキテクチャーに関する発表も多数行われた。

 HTS回路に使用する接合は、ランプエッジ接合に固まりつつある。ランプエッジ接合の臨界電流均一性は、100接合で1s=8%(NEC)を筆頭に、20~30接合で10%台前半の1 sが得られており(Northrop Grumman, Conductus, TRW, KFA)、接合数十個規模の回路を動かせるレベルになってきた。 IcRn積はGaドープPBCOをバリアに用いた接合で、0.5 mV(at 65 K)という240 GHzの動作周波数に対応する高い値が得られた(TRW)。HTS回路では、スイッチ時間17 psのring oscillator(KFA)、T flip-flopの200 GHz動作(Toshiba)、ピコ秒分解能のsampler(NEC)で高速動作の実証がなされた。また、RS flip-flop(DERA)、T flip-flop(TRW)、4 bit AD converter(Northrop Grumman)の動作も報告されている。これらの回路はいずれも 10ゲート規模の積層回路であり、冷却の容易さを活かした展開が期待される。(M. H.)

-マイクロ波応用-

 "Superconductivity coming to market"を掲げて開催されたASC'98でしたが、マイクロ波応用の分野においては特にそれを意識して参加した研究者が多かったのではないでしょうか。通信用フィルタは"market"に近いものの一つで、多く報告されていました。移動体通信用として注目したのは、DERA Malvernのグループから報告されていた25×15mmの基板上に作製されたクロスカップル型の8段フィルタでした。非常に小型であるのみならず、キャビティにも特徴があり、チューニングのために用いる誘電体ロッドの先端に超伝導体を付加してその部分での損失を軽減するというものでした。一方、衛星通信用のハイパワーフィルタについては、Wuppertal大学のグループからエッジでの電流集中のないディスク型の共振器を用いて100 W以上の耐電力特性を持つものが報告されていました。この際、製造方法または入手先の違う数種の基板の比較を行い、誘電損のばらつきに起因するフィルタの特性の変化も検討されていました。このことは、品質の保証されたHTS薄膜が安定して供給されるようになり、基板の品質まで問われる段階に入ったことを示しています。さらに、基板の選択に関連した研究では、バッファ層として多用されるCeO2の誘電率の見積、またそれがデバイス特性に与える影響なども議論されていました。大面積HTS薄膜の面内均一性の評価法として、ホール素子をスキャンして膜質分布を見るシステムがWuppeterl大学のグループから提案れており興味深いものでした。DU PONTのグループはフォトレジスト感覚で使えるテフロンでHTS膜を保護することを試み、熱サイクル・経時変化の観点からそれが有効であることを示していました。

 これらの後半で紹介した報告は、基礎的ではありますが、「"market"への足固め」という印象を受けました。講演後"Palapas"という屋外のバンケット会場で、マイクロ波関係の研究をヨーロッパでしている数人の若手の研究者と"Superconductivity coming to market"についての議論になりました。あの陽気な空間での話にしては真剣になってしまい「今回の"看板"が最後のチャンス。もし逃せば、他に仕事を探すほかない」という決意が伺われました。この決意の裏にはかなり不安を含んでいるのですが、それと同時に「マイクロ波デバイスについては、作製技術、性能、冷却技術ともここ数年向上し、"market"へ出すに価するものが得られつつある。」という点で期待を持っていることも確かでした。この実現のためにはユーザー側の意志が重要であることを考えると、"研究部"の他に"営業部"の強化も必要なのでしょうか?(Geko Yamagata)

-SQUID応用-

 今回の会議では、高温超伝導SQUIDの性能の再現性や安定性が格段に進展し、システム化の研究が本格化してきた印象を強く受けた。SQUIDの磁界分解能Bnとしては液体窒素温度でBn(1kHz)<50 fT/Hz1/2, Bn(1Hz)<100 fT/Hz1/2が多くの研究機関により再現性良く達成されている。この性能はほとんどの応用において充分な性能である。またSQUIDのパッケージ法の開発により長期間の安定性も確保されており、システム化の研究が精力的に行われている。なおセンサの構成は単層薄膜で作製可能ないわゆる直接結合型SQUIDが主流であり、ジョセフソン接合としては傾角30度のバイクリスタル接合とステップエッジ接合に絞られてきている。

 システム化においては磁気シールドなしにSQUIDセンサを使用するための工夫が多く見られた。地磁気のトラップによる性能劣化を押さえるため、磁束検出コイルにはスロットと呼ばれる細長い溝やフラックスダムと呼ばれる部分が挿入されている。また、環境磁気ノイズを除去し高いSN比を得るためのいわゆるグラディオメータの開発も盛んに行われている。さらに、雑音の大きな環境下でのSQUIDの安定動作を確保するための広帯域電子回路(帯域1MHz程度のFLL回路)の開発も行われている。

 SQUIDの応用についても多くの成果が見られた。心臓磁界計測への応用については成人とともに胎児の心磁計測を目標としており、冷凍機と組み合わせたシステム開発が注目された。SQUID顕微鏡については室温のサンプルを50 mm程度の空間分解能で計測できるシステムが開発されており、電子回路の電流分布などが計測されていた。非破壊検査についてはドイツ(ユーリッヒ)の精力的な発表が目立った。航空機の部品の非破壊検査を行っており、渦電流法を用いた従来の検査法との定量的な比較によりSQUIDの優位性が示せる段階にまで達している。Geographical Applicationとしては地中や海中の構造の調査が実際に測定できる段階にまで達しており、なかでも航空機に搭載したSQUIDにより海洋の調査を行い従来の誘導コイル法と比較してSQUIDの優位性が示されており、今後の展開が期待できる。SQUIDの発展のためにはいかに有用な応用分野を多く見つけるかが鍵であり、ユーザの開拓(ユーザとの共同研究)が重要であるとの印象を強く受けた。(K. E.)

―検出器−

 超伝導体を利用した赤外等の光やX線γ線等の電離放射線に対する検出器に関して多くの発表があった。超伝導検出器としては、ジョセフソン接合(STJ)を用いるものと超伝導転移端センサー(TES)を用いるもので2つに分けられる。

 STJ型検出器:現状ではエネルギー分解能ではTES型より劣っているが(5.9 keVに対して12 eV)、高計数率、高い動作温度、温度変化に対する寛容性の点で勝っている。しかし10keVを越えるような高エネルギーX線に対しては極端に検出効率が低下してしまう。そのため本会議での発表も赤外から2 keV以下の低エネルギーX線に対する検出器としてのものが主であった。しかしその中でもSRONのグループはX線の吸収体としてバルクNb単結晶を用いて、それにSTJ素子を接合することで高エネルギーX線に対してもSTJ素子を適応可能とする点で注目される。またその他では、ESTECのグループではアレイ状に配列した素子を用いて、またイエール大学では複数の素子を吸収体の端に設置し、各素子での信号の立ち上がり時間の差を利用することによりイメージング用センサーとして応用を目指している。またその他にも分解能劣化の原因に対する発表もLLNL等からあり今後の研究への寄与が期待された。

 TES型検出器:本型式の検出器はエネルギー分解能は低温検出器で最高の値を達成しているが(5.9 keVに対して7.2 eV)、計数率が低い点でSTJ型検出器に劣っている。本会議ではスタンフォード大学のグループが、これまでSTJ型検出器でしか行われてなかった赤外までの光のEDSフォトンカウンティングを行ない、さらに同じ検出器で宇宙天体からのスペクトルを測定し宇宙応用への検証を始めた点で注目される。またまだ実際に測定を行ってはいなかったが、SRONのグループは赤外線検出器として蜘蛛の巣状の窒化シリコンの網とTESを組み合わせたものを製作し興味深い。

 この他にも本会議では検出器用前置増幅器に関する発表もいくつかあった。信号増幅としては、JFETを使うものとSQUIDを使うものに分けられる。理研グループはGaAs JFETを用いて4K動作のアンプの検証を行っていた。また全く新しい方法としてスタンフォード大のグループがSET(単電子トンネリング)ダイオードを、HYPRESがRFSQを用いた信号増幅を検証し注目された。(M. U.)