SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 5, Oct. 1998.

13.高磁界Nb3Sn超伝導線材の新製法を開発
_広い可能性を秘めた新製法_
東海大学


 高磁界を発生できる超伝導線材の開発は、NMR分析装置や核融合装置等に有用である。現在、高磁界発生に広く用いられているのは、ブロンズ法や内部拡散法で製造されるNb3Sn線材で、さきにTi添加Nb3Sn線材で4.2 Kで18.1 T、1.7 Kで21.5 Tの高磁界が発生されている(科学技術庁・金属材料技術研究所)。東海大学総合科学技術研究所では、Ta-Sn芯を用いる新規な手法で、4.2 K、23 TでNb3Sn層当り5万A/cm2の臨界電流密度Jcをもつ線材を作製した。

 図1に本線材の製法を示した。まず、TaとSnの粉末を約1:1の割合で混合してアルミナるつぼに入れ、Snを溶融させ950℃で10時間加熱すると、Ta-Sn化合物が容易に粉末状で生成される。この粉末をNbまたはNb-Ta合金管(シース)に充填して、溝ロールと平ロールにより、厚さ約0.5 mm、幅約5 mmのテープ線材に加工した。加工の際には中間焼鈍を必要とせず、多くの中間焼鈍を要するブロンズ法に比べて加工コストを大きく低減できる。このテープを真空中900℃-925℃で40時間熱処理すると、Ta-Sn芯とNb(Nb-Ta)シースとの反応で、厚さ70-80 μmの均一なNb3Sn層が生成される。Nbシースを用いても、Nb-3.3原子%Ta合金シースを用いても、Nb3Sn層の厚さは変わらない。本製法の第一の特長は、極めて厚いNb3Sn層が生成される点にあるが、その主な原因は、SnのNbに対する結合力がTaに対するより強いことによると考えられる。従来のブロンズ法等では、Cu-Sn合金をSnの供給源としていたが、Ta-Sn化合物をSnの供給源とするのは、新しいアイデアと言える。なお本製法では、高温超伝導テープのように粉末芯を用いているが、超伝導相の生成はブロンズ法のような拡散プロセスによっている。また、Nbが芯まで拡散して、反応後も芯にボイドの発生がないのも特長である。Taは数原子%程度、芯及びNb-TaシースからNb3Sn層に固溶する。さらにTa-Sn芯に10原子%程度のCuを添加すると、最適熱処理温度を800℃に下げることが出来る。

 Nb-3.3原子%Taシースを用いて作製されたNb3Sn線材の臨界温度Tcは18.4 Kでブロンズ法Nb3線材より1K近く高い。本製法の第二の特長は、TaがNb3Sn層に固溶し、高磁界特性を大きく改善する点にある。図2には、4.2 K、高磁界における本線材の臨界電流Icと、Nb3Sn層当りのJcの磁界変化を示した。本線材のNb3Sn層は23 Tでも約5万A/cm2のJcをもち、Nb3Sn層が厚いため、約150 AのIcを示す。このため、従来のTi添加Nb3Sn線材より3−4 T高い磁界を発生しうる可能性をもつ。なお、本線材の高磁界におけるIcの測定には、東北大学金属材料研究所及び金属材料技術研究所強磁場ステーションの施設が利用された。

 本製法では、Ta-Sn芯を充填したNb-Ta合金シースが、Cuとの複合加工が容易な点が第三の特長であり、実用的な多芯形式の線材を作製することが可能である。本線材は、線材加工が容易で、また通常の熱処理法で格段に優れた特性がえられるので、超伝導を用いた高磁界の応用に新たなインパクトを与えることが期待される。本研究成果は、本年9月の米国、応用超伝導会議で招待講演として発表され、諸外国からも大きい反響を呼んでいる。東海大学 太刀川恭治教授は、「この手法には種々のバライアティが考えられ、広く他の化合物の線材化にも新しい道を開く可能性があるので研究を進めている」とコメントしている。

(西東)


図1 本線材作製プロセス


図2 高磁界における臨界電流(左)と
   Nb3Sn層の臨界電流密度(右)の磁界変化