SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 5, Oct. 1998.

11.世界初の小型パルス管冷凍機を搭載した宇宙船発進
___ロッキード社/NIST___


 パルス管冷凍機は、その小型・軽量・簡便性の故に、開発動向が注目されてきた。この度、ロッキード社( Lockheed Martin Astronautics)がNIST( National Institute of Standards and Technology)と共同して、宇宙船向け世界最小のパルス管冷凍機を製作したことが明らかになった。このパルス管冷凍機は、18 Kで50 mWの冷却能力を有し、コンプレッサーのストローク体積は1cc以下である。NISTがロッキード社の指示に従い、今月打上げ予定のシャトル型宇宙船STS-90に搭載するパルス管冷凍機を設計・試験し、最適化を担当した。ロッキード社は、構造的及び熱的設計を行い、飛行体ハードウェア、電子装置、ソフトウェア、データ取得装置を提供した。NASAは同じく、ハードウェアの供給と本冷凍機をケネディ宇宙センターに送る前に、振動試験を実施することにより、当プロジェクトに貢献した。これらの共同作業は、共同研究開発協定(CRADA)と宇宙開発協定に基づくものである。

 パルス管冷凍機は、今だかつて宇宙で運転されたことはなかった。ロッキード社実務管理者兼主席研究員のD.Ladner博士によれば、「本試験の主目的は、この世界最小パルス管冷凍機を用いて、無重力下でパルス管冷却技術を実証すること、そして宇宙において運転実績を得ることである」。 NIST主席研究員のR.Radebaugh博士は「宇宙の諸条件がパルス管冷凍機にとって何等かの新しい問題をもたらすとは予想していない。しかし、科学者にとっては、パルス管冷凍機が実証されるまでは、その技術を宇宙で使用することは心穏やかではないであろう」と語った。本冷凍機は、将来の宇宙船に設置される赤外線センサーを冷却するのに使用できるだろう。この宇宙船は、オゾン・ホールの理解や地球温暖化、天候の長期予測に役立てる為に、大気圏や大洋における温度変化の調査を目指している。そして、本冷凍機は、高温超伝導素子、特に通信用部品を冷却するのに使えるだろう。

 パルス管冷凍機は、冷熱部に運動部分を持たないので、他の冷却技術と較べ、振動がより少なく、より高い信頼性が得られ、より簡略な電子制御装置でよい。大気圧のモニタリングの場合には、振動は赤外線検出動作に干渉する。以前、最小のパルス管冷凍機は、1ccストローク体積のコンプレッサーで運転していた。より小型のパルス管冷凍機を製作する理由の一つは、機械的動力を減少して、電池容量を減らすことである。本冷凍機の場合、機械的動力は略10 Wである。しかし、パルス管冷凍機を小型化していくと、或る本質的困難に突き当たる。Radebaugh博士によれば、「理想的には、パルス管内のガスと管壁間の熱交換は望ましくないが、小型化していくと表面積/体積比が大きくなる為、熱交換が良くなり始める。この熱交換が本冷凍機の小型化の下限を決める。我々はこの限界を探求し、パルス管冷凍機の小型化技術を推進してきた」とコメントしている。

(高麗山)