SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 5, Oct.1998.

2. 冷凍機冷却超伝導マグネットの世界最強磁場15 T実現
____ 住友重機械 ____


 酸化物超伝導導体を電流リードとして使用することによって実現した冷凍機冷却型超伝導マグネットは著しい性能向上を見せている。東北大学金属材料研究所と住友重機械は、液体ヘリウム不要の冷凍機冷却超伝導マグネットとして世界最強の15 Tを室温空間直径52 mmに24時間安定して発生させることに成功したと新聞発表した(写真1)。

 これまでの冷凍機冷却超伝導マグネットは12 Tまでの磁場発生を記録していたが、これを大幅に上回り液体ヘリウムを使った従来型超伝導マグネットに匹敵する強磁場発生能力を実証したことになる。液体ヘリウム不要の超伝導マグネットは、従来型超伝導マグネットと比較して非常に使いやすいだけでなく長時間の磁場発生を可能にすることから、結晶成長、化学反応などへの磁場効果や構造材料、生物などへの磁場の影響などの新しい研究にも15テスラまでの強磁場領域の道を開くことになり、新産業創設に大きな貢献をもたらすものと期待出来ると言う。

 名古屋大学大学院工学研究科・材料プロセス工学専攻・浅井滋生教授は次のようにコメントしている。「液体ヘリウム不要の超伝導磁石が普及しはじめたお陰で、一研究室レベルでも強磁場が比較的簡便に得られる状況が生まれている。そのため、物理、化学、生物の分野を強磁場という視点から横断的に見る"強磁場の科学"が誕生しようとしている。今回、開発された15 Tの超伝導磁石がこの科学の一層の発展に大きく寄与することは間違いないことと信じる」。また、科学技術振興事業団・埼玉研究室・青柿研究主任は、「本マグネットは従来より1.5倍も強力な磁場をだせるようになっているために、磁場を利用したさまざまな化学反応制御がよりいっそう容易になると考えられる。特に、磁場配向の研究においては、より強力な磁場により、もっと完全な配向を得たいという希望が多かったが、そのような要望にもこたえること大であると思われる」と述べている。

 今回開発されたマグネットでは複数の運転電流を用いたことが大きな特徴。外側マグネットは大きな運転電流で磁場を発生し、その内側のマグネットが小さな運転電流で発生磁場のかさあげを行う方法を採用している。励磁時間40分程度で15 Tが得られ、長時間安定して15 T発生できることは、磁気科学研究に有効な装置と言える。

 また、日本原子力研究所と住友重機械は、室温空間直径50 mm発生磁界10 Tの中性子散乱実験用冷凍機冷却型超伝導マグネットを開発している(写真2)。このマグネットは原研・東海研究所の改造3号炉JRR-3Mに設置され、中性子散乱などビーム実験装置として稼動を始めている。この超伝導マグネット装置は、ギャップ長さ50 mmのスプリット型超伝導コイルで構成され、ギャップ部は中性子透過のためにアルミニュームリングで電磁力を支持する構造となっている。10 Tまでの励磁時間は15分で、15時間の連続励磁試験結果が報告されている。10 T連続励磁において超伝導コイル温度4.2Kで安定しており、長時間運転に支障の無いことが確認されている。長期間にわたり手軽に強磁界を発生できる超伝導マグネットとして中性子散乱実験においても冷凍機冷却型超伝導マグネットの有用性が認められている。尚、本マグネットの開発成果は、9月13〜18日に米国で開催されたApplied Superconductivity Conferenceで報告されている。

(C.B.G.)



写真1 15 T冷凍機冷却型超伝導マグネット



写真2 中性子散乱実験用冷凍機冷却型超伝導マグネット