SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, Aug. 1998.

8.RABiTS法に関する米国特許が成立!
___オークリッジ国立研究所 ___


 昨年8月には、超電導工学研出願のNd系高温超伝導体に関する米国特許成立が話題になった(本誌Vol.6, No.4 掲載)が、この度オークリッジ国立研(ORNL)出願のRABiTS(rolling-assisted biaxially textured substrates)製造法に関する2件の基本特許が発効したことが明らかになった。すなわち、特許番号5,739,086(1998年4月14日付)と特許番号5,741,377(同年4月21日付)の2件で"2軸配向組織化製造法を提案しており、面心立方、体心立方あるいは稠密6方晶の金属よりなるロール及び焼鈍により、2軸配向組織化された基板とその上にエピタキシャル蒸着された超伝導体または他の材料を包含するもの"。

 RABiTS法は、その上にYBCOや他の超伝導体あるいは前駆体を形成できる基体を提供する。現在、ORNLや共同者が使用しているRABiTS構造体は、Niに1層または多層のバッファー層を形成したものである。ORNLは、パルス・レーザ蒸着法により形成したYBCO膜の短尺試料で、300万 A/cm2(自己磁界、77K)に達する臨界電流密度を実証している。

 ORNLのプログラム部長B. Hawsey氏によればRABiTS法に関連する追加特許は保留になっている。ORNLは95年4月の最初の出願以来、数件の特許を申請している。現時点で、ORNLは4件の特許権実施許諾を産業界メンバーに与えている。この産業界メンバーには、Micro Coating Technologies、 Oxford Superconducting Technology)OST)、Midwest Superconductivity Inc.(MSI)が含まれている。また、外国の数社と特許権許諾の交渉を行なっている。さらに他の特許権許諾について数社と交渉中であるという。

 Hawsey氏により、その一般性の故に"強力である"と語られているように、第2特許の6つの請求項は、下記の事項を網羅している。

(A) 2軸配向組織化した基板を形成するため、原金属材料にロール加工と焼き鈍し処理を与える工程からなる2軸配向組織化積層物の製造方法。この原金属材料は、面心立方、体心立方、あるいは稠密6方晶の構造を有すること。前記2軸配向組織化した基板はX線回折によりφスキャンピークが20度(FWHM)以下に特徴づけられること。そして、

(B) 前記2軸配向組織基板の表面にエピタキシャル蒸着を助ける材料をエピタキシャル蒸着し、2軸配向組織化した積層物を形成すること。

特許No. 5,741,377の16請求項の詳細は、下記インターネット上で見ることができる。

(http://www.patents.ibm.com/claim?patent_number=5741377)

 MSI社のJ. Wilson氏は、本特許がRABiTS製造法を広範囲に保護するだろうという信頼感を表明し、"本技術はまだ、初期段階にあるがRABiTS法を援用して開発を進めている多くの企業が生産を続けるために将来本特許権の実施許諾を取得するようになるだろう。MSI社が外国を含めて取得した実施許諾により、本製造法に基づく素子や導体の外国(未だ特定していないが)への販売を積極的に推進できるだろう"と語った。一方、電力研究所(EPRI)のP. Grant氏は、"特許の価値は、商用化開発の遅い段階まではほとんど明らかにはならない。その段階で初めて法廷でその意義が詳細に議論されるからである"と指摘している。

 次世代高温超伝導線材の有力な製造法に関する特許が成立したわけであるが、このRABiTS法に対抗できる製造法にはフジクラのIBAD法、日立電線の配向組織化金属基板法、住友電工のISD法、超電導工学研のLPE法等がある。これら製造法の特許権成立に係る今後の動向に注目していきたい。

(こゆるぎ)