SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, Aug. 1998.

7. Bi-2212系線材に新顔登場
___ 日立、日立電線、金材研の共同研究グループ ___


 (株)日立製作所、日立電線(株)、金属材料技術研究所の共同研究グループは、平成10年7月7日付で実用的な形状と性能を有する新しい酸化物超電導線材を開発したと発表した。

 この新しい酸化物超電導線材は、ROSAT wire(Rotation-Symmetric Arranged Tape-in-tube wire、回転対称テープインチューブ線)と呼ばれるもので、丸線あるいは平角線の断面形状を有している。現在はBi-2212系を中心に開発を進めているが、今後は他の酸化物系材料にも順次適用して行くとのことである。

 同研究グループは、従来からBi-2212銀シーステープ線材を中心に精力的な研究開発を行っていることで知られている。Bi-2212系材料は極低温度で従来金属系材料よりも遙かに高い臨界磁界を有することから、核融合炉や加速器、医療用MRI装置など強磁場を応用した各種装置に適用可能と考えられ、国内外で精力的な研究開発が進められている。ビスマス系材料は、結晶構造に起因した強い2次元的異方性を有しており、銀シース線材を作製するときに、電流が流れやすい結晶面を揃える必要がある。また、最近は高い電流輸送特性を得るには、平滑な銀との界面積を増やすことも有効であることが明らかになっている。一方、パウダー・イン・チューブ法による線材の製法は、従来、銀パイプに酸化物超電導粉末を充填し、この後に線引き加工を行って長尺化した後、更に、圧延加工して薄く緻密な多芯フィラメントを形成し、熱処理して高性能の線材を得る方法が一般的であった。しかし、この様なテープ線材では、テープ厚みと幅を均一に揃えることが容易ではなく、また、熱処理後の線材の取り扱いが難しいことから、高品位マグネット開発のためには、ソレノイド巻き線ができる丸線材の開発が強く望まれていた。

 今回開発した線材のポイントは、一度、パウダーインチューブ法で多芯テープ状線材を作製した後、これを再び、銀パイプの中に組み込み、再び線引き加工して線材とする方法を確立したことにある。この方法は、これまでにも試みられた例はあるが、テープを組み込んだ後の線引き加工の際に、フィラメントの形状が乱れ易く、これが長尺線材化の障害になっていた。今回開発した線材は、この現象を抑止するため、フィラメントの配置を工夫したところに特長があり、断面内で3回の回転対称性を持つようにテープ状のフィラメントが配置されている(図参照)。これにより、加工による断面形状の乱れはほとんどなくなったという。

 この様に、丸線の中に多数の均質なテープ状のフィラメントを埋め込む技術ができたことで、フィラメント内部の酸化物結晶の配向性を向上でき、従来のテープ形状の線材と比較して遜色ない、1000A級の電流容量、2500A/mm2(4.2K、0T)の電流密度をもつ臨界電流密度を初めて実現できたという。

 フィラメントの新しい配置方法を考案した日立研究所の岡田道哉主任研究員は「テープ状線材の長所を損なうことなく、丸い断面の線材を製作する方法をずっと考えてきた。断面内のテープ状フィラメントの対称性を保つことで、縮径加工しても断面組織が乱れなくなり、高特性が得られるようになった。もはやテープ線材の時代は終わった」とコメントしている。

 ROSAT線材が強磁場中でも高い性能を持つことを見い出した金属材料技術研究所、北口仁主任研究官は「990芯とフィラメント数を従来テープ線材の約20倍に増加させることで、銀と超電導体との界面積が大幅に増すと共に、フィラメントの厚みを薄く設定できたことが、特性向上の理由と考えている。今後、更にフィラメントの厚みと銀界面積を最適設計することで、性能向上が期待できると思う。さらに手元にある初期ロットの線材でも、28T(4.2K)の磁場中でJc=1000A/mm2、Ic=300Aを越える特性を得ており、今後に十分な期待を抱かせる。」とコメントしている。

 また、長尺化技術開発を担当している日立電線 佐藤淳一研究リーダ ー は「ROSAT線材は従来のテープ線に比較して量産性に優れており、km超級の長尺線材の設計・製作が容易になった。また、線引き加工で 製作 で きるため、加工精度も飛躍的に向上でき、高品位のソレノイド巻きコイルにも対応できるようになった。平角状に成型すること で均一磁場発生用のマグネットなどにも適用できるのではないか」とコメントしている。

(Clark Kent)



図 ROSAT線材の断面構成の一例(900芯)