SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, Aug. 1998.


6. 大電流容量交流超電導線材技術を開発
___住友電気工業___


 住友電気工業株式会社は、商用周波数で使用される各種電力機器に適用可能な大容量交流用超電導線材の開発に成功した。通電電流が直流特性を用いて設計可能な交流10kA級NbTi大容量導体を開発し、更にNbTi導体をコイルとして使用する場合に冷却用の液体ヘリウムの消費量を大幅に低減可能なビスマス系高温超電導電流リードを開発したもので、これらの技術開発により、大電流容量NbTi導体を用いた各種低損失電力機器を低ランニングコストで運転できる要素技術が開発できた。

 いずれも通産省工業技術院のニューサンシャイン計画「超電導電力応用技術開発」の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構からの委託により実施してきたものである。なお、これらの成果はプロジェクトの推進母体である超電導発電関連機器・材料技術研究組合(Super-GM)の成果報告会で7月7日に詳細を発表した。

 交流用超電導線は交流通電時特有の交流損失を低減するため、超電導フィラメント径をサブミクロンまで極細化し、高抵抗のCuNiマトリックス中に埋め込み、素線外直径0.2 mmφ程度まで細径化し、さらに短ピッチでツイスト加工を行う必要がある。素線直径を細くする必要が有るために、素線1本に通電できる電流値は数十A程度と小さく、大容量化するためには多数本の素線を集合し撚線導体化する必要があった。しかし、撚線導体では、素線のマトリックスとして使用するCuNiの熱伝導率がCuの1/1000と非常に小さく、線材の交流損失や線材の僅かな動きによる発熱により、直流臨界電流値に比べ交流通電ではその半分も通電できず、導体設計ができないという問題点があった。

 住友電気工業(株)は、素線を低交流損失化するとともに、安定化Cuをミクロンサイズで配置することによって熱的な安定性を高めた素線を開発した。また、撚線導体の通電時の電磁界解析を行い、撚線導体構造および撚線条件を見直した結果、1次から3次撚線レベル(電流容量で1〜10 kA級)までの導体で交流通電電流が素線レベルの直流臨界電流値の素線本数倍となり、超電導電力機器へ適用する大容量導体の設計技術確立へ大きく前進した。特に3次撚線導体においては、交流ピーク磁場0.5 Tで磁場ピークと電流ピークが一致する条件で10.2 kAの通電に成功した。なお、3次撚線による10 kA通電の成果は、Super-GMが通産省工業技術院電子総合研究所(つくば市)に設置した交流大容量超電導導体特性評価試験装置を使用して得られたものである。

 今回の交流用NbTi導体では、交流損失を低減するために、CuNi合金の中でも特に高抵抗のCu−30%Niをマトリックスとし、0.11mmまで細径化したNbTi超電導フィラメントを埋め込み、素線外直径0.2mmφの5倍の1mmという加工限界ギリギリの短ピッチでツイスト加工を行った。また、素線断面中に配置される安定化CuのNbTiに対する割合を1〜1.5と高め、その配置を分散配置化と最適化することにより、発熱を効率よく拡散することが可能な低交流損失でかつ熱的に非常に安定な超電導素線を開発した。また、撚線導体の通電時の電磁界解析を行い、撚線導体構造および撚線条件を見直した。この低交流損失でかつ熱的安定性に優れた超電導素線を用いた3次撚線で、0.5 T(ピーク値)商用周波数50Hzの交流磁界中で、直流臨界電流値とほぼ同等な10 kA(実効値)通電を可能とした。通電試験は、コイルとして使用することを想定して、磁場のピークと電流のピークが一致する位相条件で実施した。この条件は実際の機器運転時と同一の条件であり、この条件下で10 kAの通電が可能であることを世界で初めて実証した。導体は、直径0.2 mmφの素線6本をCu−30%Ni中心線の周りに撚り合わせた1次撚線をさらにCu−30%Ni中心線の周りに12本撚り合わせて2次撚線とし、同2次撚線をさらにCu−30%Ni中心線の周りに6本撚り合わせた合計432本の素線を集合した外径約9mmφの3次撚線構造となっている。

 開発を担当した湯村洋康研究員は、「本開発結果により、交流用大容量導体が容易に設計できるようになり、導体設計技術確立に目処がたった。電力機器応用では、用途によってはさらに大容量化が必要であり、今後さらにこの技術を発展させて行きたい。電総研での試験も深夜に至る測定が多かったので、これまでの苦労が報われてほっとしている。」と語っている。

 さらに電流リードにおいては、高臨界電流値を持つ棒状(ロッド)線材を用いて大容量の通電を可能とした。使用されたロッド線材は熱伝導率が小さいビスマス系酸化物超電導材料をレーザペデスタル法という溶融状態から結晶を成長させる手法によって作製したもので、この手法により酸化物超電導体の粒子が配向しお互いに電気的、機械的に強固に接合した組織を持つ線材が得られ、大きな電流を流すことが可能になった。また、金属と複合化されていないため渦電流等の問題がなく、交流用として最適なものになっている。

 今回の開発においては、ロッド線材の性能向上に加え、電極部構成の改良により金属電極から超電導体に交流電流が流れ込む際に発生する損失を大幅に低減できる電極を開発した。その結果、電流リードとして交流で1kArmsを安定に通電でき、冷媒に使用する液体ヘリウムの蒸発量に相当する熱侵入量は0.22W/kArmsと銅製リードの1/5以下の熱侵入量を達成した。また、ロッド線材を複数本集合し、その複数本の線材に均等に電流を通電させる技術の開発により、3本集合の電流リードとして直流2.4 kAの大容量通電が可能となった。一方、12本集合で4.1 kA通電可能な導体(77K、自己磁場中)を開発しており、交流用電流リードの大容量化のための要素技術が開発できた。

 開発を担当した兼子哲幸主査研究員は、この成果について「リード単体としての性能は確認できたので、今後何かの機器に適用し、その有効性を確かめたい」と抱負を語っているが、現在、酸化物でこのような交流の大電流を通電可能なコイルは存在しないので、たとえば金属系交流コイルと組み合わせた評価など、今後に期待したい。(Ultra-7)



写真1 交流用NbTi導体



写真2 超電導電流リード