SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, Aug. 1998.

5.Nb3Al 線材最新開発状況


 実用超電導線材の次期大型ル−キ−として、急熱急冷・変態(RHQT)法によるNb3Al線材開発が進みつつある。この線材は、Nb箔とAl箔を重ねて巻き込んだ複合体を押出加工し、できた複合線を多数本、Nbマトリックス中に組み込み、押出加工、伸線加工によりNb/Al極細多芯複合線とする(図1)。この複合線を使い、図2に示す急熱急冷(RHQ)処理を行う。Nb/Al複合線は1 m/sec の速度で移動しながら通電加熱により2000℃まで 0.1秒で急加熱され、液体Ga中を通過し、急冷される。液体Gaは冷媒と電極の役割を兼ねている。この急熱急冷処理した状態で、Nb/Alのジェリ−ロ−ル状の複合芯はNb-25at%Al過飽和bcc固溶体となり、超電導特性は良くないが、冷間加工性に富んでいる。さらに750〜850℃の熱処理を加えると、過飽和bcc固溶体から超電導特性の優れたNb3Al(化学量論組成に近く、微細結晶粒である)が析出する。なお、従来のジェリ−ロ−ルNb/Al線材では複合線を750〜950℃で直接拡散反応させるため、その温度での安定相である非化学量論組成で超電導特性の劣ったNb3+xAlが生成してしまう。

 新Nb3Al線材のTc及びHc2(4.2K)は、最も特性の優れたTi添加Nb3Sn線材と同程度だが、Jcは3〜5倍も大きい(図3)。注目すべきは耐歪み特性で、Ti添加Nb3Sn線材に比べ圧倒的に優れている(図4)。133 mの長さのNb3Al線材を使った Wind & React法による小コイルが試作され、短尺サンプルのJc-B特性とほぼ一致するコイル遷移電流を得ており、線材長手方向特性の均一性が証明された。また、成形より線ケ−ブルも試作され、素線のIcを合計したIc特性が得られている。安定化銅を経済的に複合する技術が開発課題として残っているが、検討が進んでおり、この秋には新たな進展が報告されるであろう。

 新Nb3Al線材は、4.2 Kで、21 T、また、1.8 Kで、24 Tまでの超強磁場用超電導マグネットや、線材が巨大応力に曝される核融合炉、MHD発電、SMES等の大型強磁場応用だけでなく、あらゆる磁場での Jcが現在の実用線材より優れているので、磁気浮上列車や加速器用強磁場ダイポ−ルマグネット等への利用が期待されている。

 この新製法誕生には数多くの人々が関係した。基本着想と実証試験は金属材料技術研究所のK. Inoue とY. Iijimaによる。Nb3Al線材の耐歪み特性は同所の T. Takeuchi により明らかにされた。急熱急冷装置の改造による線材均一性の向上はY. Iijimaと日立電線のK. Fukuda の努力による。最近の大容量化は日立電線のK. NakagawaやG. Iwakiの貢献による。また、1 GHz NMR 用内層マグネットという開発目標と線材評価測定手段の強磁場を提供した金属材料技術研究所強磁場ステ−ションの全面協力も見逃せない。

 日立製作所の相原勝蔵氏のコメント「酸化物系超伝導体発見が描いてみせた超ド迫力のある将来の夢と比べるとこの新線材開発が描く将来の夢は、スケ−ルがかなり小さいが、堅実そのものである。線材コストをあまり引き上げずに、Jcが3〜5倍大きくなり、優れた機械的特性が得られるのだから」《つくば超電導おたく通信》



図1 Nb/Al極細多芯複合線(0.5mmφ)の断面写真

   急熱急冷処理前の線材



図2 急熱急冷(RHQ)処理装置の概念図



図3 新Nb3Al線材、ブロンズ法(Nb,Ti)3Sn線材、Nb-Ti線材、及び銀シース法による

   Bi-2212テープ線材の安定化材を除いた状態のJc-B特性の比較



図4 新Nb3Al線材、ブロンズ法(Nb,Ti)3Sn線材及び銀シースBi-2212テープの

   4.2K,12Tでの臨界電流の歪みによる劣化