新Nb3Al線材のTc及びHc2(4.2K)は、最も特性の優れたTi添加Nb3Sn線材と同程度だが、Jcは3〜5倍も大きい(図3)。注目すべきは耐歪み特性で、Ti添加Nb3Sn線材に比べ圧倒的に優れている(図4)。133 mの長さのNb3Al線材を使った Wind & React法による小コイルが試作され、短尺サンプルのJc-B特性とほぼ一致するコイル遷移電流を得ており、線材長手方向特性の均一性が証明された。また、成形より線ケ−ブルも試作され、素線のIcを合計したIc特性が得られている。安定化銅を経済的に複合する技術が開発課題として残っているが、検討が進んでおり、この秋には新たな進展が報告されるであろう。
新Nb3Al線材は、4.2 Kで、21 T、また、1.8 Kで、24 Tまでの超強磁場用超電導マグネットや、線材が巨大応力に曝される核融合炉、MHD発電、SMES等の大型強磁場応用だけでなく、あらゆる磁場での Jcが現在の実用線材より優れているので、磁気浮上列車や加速器用強磁場ダイポ−ルマグネット等への利用が期待されている。
この新製法誕生には数多くの人々が関係した。基本着想と実証試験は金属材料技術研究所のK. Inoue とY. Iijimaによる。Nb3Al線材の耐歪み特性は同所の T. Takeuchi により明らかにされた。急熱急冷装置の改造による線材均一性の向上はY. Iijimaと日立電線のK. Fukuda の努力による。最近の大容量化は日立電線のK. NakagawaやG. Iwakiの貢献による。また、1 GHz NMR 用内層マグネットという開発目標と線材評価測定手段の強磁場を提供した金属材料技術研究所強磁場ステ−ションの全面協力も見逃せない。
日立製作所の相原勝蔵氏のコメント「酸化物系超伝導体発見が描いてみせた超ド迫力のある将来の夢と比べるとこの新線材開発が描く将来の夢は、スケ−ルがかなり小さいが、堅実そのものである。線材コストをあまり引き上げずに、Jcが3〜5倍大きくなり、優れた機械的特性が得られるのだから」《つくば超電導おたく通信》
急熱急冷処理前の線材
図2 急熱急冷(RHQ)処理装置の概念図
図3 新Nb3Al線材、ブロンズ法(Nb,Ti)3Sn線材、Nb-Ti線材、及び銀シース法による
Bi-2212テープ線材の安定化材を除いた状態のJc-B特性の比較
図4 新Nb3Al線材、ブロンズ法(Nb,Ti)3Sn線材及び銀シースBi-2212テープの
4.2K,12Tでの臨界電流の歪みによる劣化