SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, 1998.

2.酸素で超伝導発見―95万気圧、0.6 K
__阪大基礎工、原研先端基礎研究センター
(戦略基礎プロジェクト)__


 金属や水素、酸素などの超伝導発現は、各国での努力が続けられてきたが、ついに酸素で超高圧、極低温下での超伝導が発見された(Nature誌6月25日号に掲載)。

 発見したのは阪大基礎工、原研先端基礎研究センター、戦略基礎プロジェクト共同チームで、代表者は阪大基礎工の天谷喜一教授。

 実験はダイアモンドアンビルセルを用いて行われ、酸素の相図を求めるという総合的な研究の中で行われ、電気抵抗の急激な減少および、反磁性も確認された。加圧セルをまず液体酸素に浸し、入口を閉じて機械的に加圧する。それを室温に戻してさらに95-125万気圧まで加圧し、ついで希釈冷凍機に移し、冷却する。臨界温度はこの圧力範囲では顕著な圧力依存を示さない。図1は125万気圧での電気抵抗の変化、図2はこれら一連の実験から得られた現状での酸素の相図を示す。実験は、天谷教授、清水克哉助手(阪大基礎工)らによる。

 同グループでは200万気圧までの極低温での抵抗測定に成功しており、今後、酸素の超伝導における常磁性との関連や、さらに、現在、激しい競争の続いている固体水素での超伝導発見に向けても期待が持たれる。本研究を指揮した天谷教授によると「超伝導性を確認するためのマイスナー効果の検出が 最も難しい部分であったが、Snの参照信号との比較を同時に行なうことでこれを解決できた」と語っている。

 また、同グループとも関連の深い、大阪大学名誉教授、現日本原子力研究所先端基礎研究センター長の伊達宗行氏は「本研究は原研、戦略基礎研究、阪大というこれまでは互いに異質であった研究力を融合して得られた輝かしい成果で、今後の研究のあり方にも刺激を与えるだろう。科学的成果という面で見ると、酸素という軽元素で明快な素性をもち、しかも極めて日常的な物質がその極限において超伝導にもなる、という意外性が中学生にも理解できる面白さを呼んだこと、また少し専門的になるが、超伝導転移温度が予想よりもぐんと低温にあることは例外的な条件で磁性を持つO2の影を引いているのかどうか、と言った新しい課題を浮上させた意義も大きい。今回の成功は天谷氏の器量に依るところが90パーセント、と思っている。最終目標である水素の超伝導発見に向けて更なる努力を期待している」とコメントしている。清水助手は「身近な気体である酸素も、高圧、低温という極限条件下で超伝導を示すという点が面白い。この装置を改良して究極の目標─水素に挑戦したい」と語っている。

(BCS)



図1



図2