SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, Aug. 1998.

16. イタリアで超伝導国際スクール


 6月29日より7月10日までレオナルドダビンチ国際スクールがイタリア・ボローニャで講師48名、学生87名を集めて2週間開催された。毎日8時間授業というハードなスケジュールで、メカニズムからシステム応用まで、超伝導のすべてを総ざらいした。また、特別企画として、日米欧の超伝導開発パネルディスカッションがISTECの田中昭二氏、米国電力研究所(EPRI)の Paul Grant 氏、欧州超伝導開発コンソーシアム(CONECTUS)のH.W. Neumuller 氏を招いて行われた。スポンサーはイタリアのエミリア・ロマニャ地方政府、UNESCOなど。主催はイタリア研究開発機構で、IRTEC の Anna Tampieri 氏が中心となって組織された。

 このスクールは1500ページ以上におよぶ各講師のOHPやテキストなどをコピーして学生に配付した。下記リストのコピー入手については本誌事務局(巻末参照)に問合せられたい。日本からは学生2名。講師として超電導工学研村上雅人氏、名古屋工研の村山宣光氏が招かれ、また、東大工の北沢宏一氏が校長を勤めた。北沢氏によると「イタリアはCERNのLHC計画が決まったことで、低温超伝導業界は大変に活気に満ちている。本レオナルドダビンチInternational Advanced School は、電池の発明者であるガルバニの死後200年を記念して行われ、幸い超伝導がトピックスとして選ばれた。資金繰りが苦しかったが、最終的に北イタリア地方政府の支援を得て、開催に至った。70名の学生を目標としていたが、最後は増えてしまった。それにしても海外を含めて48名もの講師を招くというのはイタリアらしい鷹揚さだと思った。学生達は中世からの壁画と彫刻のある山上のヴィラに滞在し、庭園で自炊して毎晩遅くまで楽しみ、サッカー大会やダンスパーティーなど、スクールの秘書さんたちの企画により大変に良い思い出を作ったようだ。また、講師のOHPコピーは大変に参考になる。卒業式では全期間聴講した学生に卒業証書と記念品が渡されるなど、なかなか良い企画だったと思う。私も2週間、骨休みができると思って参加したが、結局、全講義に出席を余儀なくされ、学生が質問しない時には質問誘導係をさせられてしまった。前回校長のBob Schrieffer 氏がそのような伝統を作ってしまったらしい。しかし、強制的に全講義を聞いてみると、知らないことが系統的に聞け、とてもためになった。日本では2週間にもわたるスクールなどまず考え付かない。彼我の時間スケールの差について考えさせられた」と述べている。

 入手可能な講義資料要目は以下のとおり。

☆現状と将来展望:Shoji Tanaka (SRL-ISTEC)-電子デバイスへの展望と日本の超伝導プロジェクト紹介、Paul Grant (EPRI)-米国の超伝導技術の進展、Koichi Kitazawa (Univ Tokyo)-超伝導物質概論 これまでと問題点、そして展望

☆超伝導機構・電子構造関連:Michelle Cyrot (Grenoble, Neel Lab) -強相関の効果, Vlazimir Kresin (Lawrence Berkeley) -機構についての種々の考察, Oystein Fischer (Univ Geneve)-電子構造、 H.R.Ott (ETH Zurich)-超伝導物質の進化と複雑構造、P.P.Edwards-3d系物質の電子結合状態相互比較、M.Ausloos(Univ Liege, Belgium)-ノーマル状態での擬平衡、W.Y.Park (Seoul Nat Univ)-熱起電力、A.Barone (Univ Napoli)-オーダーパラメタの対称性

☆超伝導の現象論:A.Gauzzi(MASPEC-CNR Parama)-超伝導転移の熱力学、超伝導の電気力学、熱力学的揺らぎ、A.A.Varlamov (Moscow Univ) -揺らぎと擬ギャップ、 M.Ausloos(Univ Liege, Belgium)-温度および磁場が不均一の時の性質、Antonello Andreone (Univ Napoli)-超伝導キャビティ応用、マイクロ波による表面インピーダンス研究

☆臨界電流とボルテックス、ピニング、クリープなど:David Caplin (Imperial College)-散逸とトランスポート、Peter Kes (Leiden Univ)-不可逆性とSTMによる磁束運動の直接観察、A.M.Testa (ICMAT-CNR, Roma)-クリープ、G.Pozzi (Univ Bologna)-外村彰氏の電子線ホログラフィによる磁束直接観察の原理と紹介

☆磁場のシールディング:F.Pavese (IMGC-CNR Turin)-基礎的考え方と実際

☆物質: P.Radaelli (Grenoble CNRS)-種々の関連物質の構造と相互比較、E.V.Antipov (Moscow State Univ)-水銀系、銅オキシフルオライド、含SrのBi系、C. Chaillout (Grenoble CNRS)-結晶学と超伝導、Massimo Marezio (MASPEC CNR Parma)-超高圧と高温超伝導

☆高温超伝導体のプロセッシング: Norimitsu Murayama (Nagoya NIRIN)-セラミックプロセッシング概論-Bi2223を例に、Kenneth Goretta (Argonne)-焼結の基礎とHTS、 Kenneth Goretta (Argonne)-HTS中の原子の拡散、Masato Murakami (SRL-ISTEC)-YBCOとNdBCOのメルトプロセッシング、Xavier Obrador (Barcerona Univ)-バルク超伝導体の作成と性質、R.Masini (TEMOE CNR Milano)-化学気相輸送法によるHTS作成-

☆ウィークリンク問題:Norimitsu Murayama (Nagoya NIRIN)-粒界構造と弱結合

☆線材:Rene Flukiger (Univ Geneve)-低温線材および高温線材、Luciano Martini (CISP Spa, Milano)-パウダーインチューブ法、銀シースBi2223線材の臨界電流考察、Vincenzo Boffa (ENEA Roma)-YBCO厚膜テープ線材

☆安定化:Luca Bargioni (Europa Metalli)-複合線材の安定化

☆薄膜と受動素子:David Dew-Hughes (Oxford Univ)-薄膜受動素子、Tl系薄膜成長、Sergio Siri (Univ Genoa)-MBEレーザアブレーションによる薄膜成長と超格子、Luigi Maritato (Univ Salerno)-薄膜成長とその場観察

☆エネルギー応用概論:Sergio Zannela (Edison Milano)-HTS応用

☆種々の応用: Vittorio Pizzella (CNR Solido)-SQUIDの生体応用の基礎と実際、E.Esposito (CIBARC-CNR Napoli)- 粒子検出器、A.Andreone (Univ Napoli)-加速器からテレコミュニケーションまで、A.Baldini (Europa Metalli)-超伝導ケーブルの応用、M.Spadoni (ENEA Francati)-ITER核融合用超伝導導体

(ロミオとジュリエット)