SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 4, Aug. 1998.

15. CIMTEC'98報告


 World Ceramics Congress主催による第9回CIMTEC会議(CIMTEC'98)が6月14-19日にイタリアのフローレンスで開催され、セラミックスの幅広い分野に1,300名が参加した。セラミック高温超電導体発見以来、CIMTECでは毎回、高温超電導をテーマとしたフォーラムを開催しているが、本大会でも"Science and Engineering of HTS Superconductivity"のテーマでフォーラムを開催し、全体で150件を超える発表が行われた。以下に線材部門と、バルク部門についてそれぞれ報告する。

 日米欧から発表された高温超電導線とその応用について主なものは以下のようである。ビスマス系で実使用されている機器が紹介されるとともに、プロトタイプ開発へ向け着実な進展があった。また、イットリウム系薄膜線材関係では、材料開発が中心であり、応用へ向けた開発へスタートが期待される。

(1)ビスマス系線材関係:ビスマス系線材の高強度化など最近の進歩と、1分で7 Tを励磁できるマグネット、バルク浮上用大口径Active levitation用マグネット(住友電工・佐藤) 銀シースビスマス系単芯線を用いて、圧延時の圧とJc、コア形状の関係を調査し、Jc=15,000 A/cm2を得ている。圧力によりJcが変化するのは、超電導コアが不規則になるのが原因であるが、緻密化との兼ね合いであり、不規則になるのは、荷重とともに加速される。また、ホール素子を用いたJc分布とシュミレーションが良く一致することを確認している(豊橋技科大・太田) ビスマス系線材を用いたケーブル、変圧器のactivityを紹介した。ケーブルは、110kV、300-1,500MVAが目標で300MVAがBreak Evenとの目標である。メリットの一つとして、400kVの電圧階級をなくすことができることを挙げている。欧州では、列車用変圧器を開発するプロジェクトがスタートしており、容量は、10MVAである。現状は重さ12トンで効率は90%、HTSで重さ7.7トン、効率は99%。価格は5倍だが、省エネで5年でもとがとれる、とのこと。(Siemens・Neumuller) 室温絶縁と低温絶縁の両タイプのケーブルについて紹介。室温絶縁タイプは、500MVA容量で、ロスはCVと同じ300W/km/MVA。CVより2倍の大容量が出来る。低温絶縁は1GVA容量と容量も大きく、ロスも200W/km/MVAと下げられるメリットがある。(Pirelli・Nassi) ビスマス系線材を用いたマグネット応用についてNRLの活動紹介。目標は5年後に30K運転、10年後に40K運転である。Homopolarモーターは、4Kで320hp、27Kで220hp、77Kで100hpを達成。ASCとIGCがコイルを作成した。実験用マグネットとして、室温ボア50mmのものを開発し、6Tを発生している。(Naval Research Lab・Soulen)YBCO薄膜線材、ビスマス系コイルについてSPIも含めた最近の成果を発表。限流器コイルは、ビスマス系で1mのコイルを作る計画で、10kV,20kAが目標。(LANL・Peterson)

(2)イットリウム系薄膜関係:Siemensと共同で開発中の限流器用YBCO薄膜を紹介。20cm×20cmの面状。IBAD用、PLD用に大きなガンを作っている。コスト分析をすると、単結晶やセラッミク基板ではコストが高く、基板を金属にする必要があるとの結論である。(Gottingen大・Freyhardt) 限流器100kVAのモデルは10枚のサファイア基板を用いた並列方式を採用したもので、Iop=135Armsであり、今後評価を続ける予定、とのこと。1998年には3相、1MVA(6kV,100A)を開発する計画である。(Siemens・Neumuller)Rabits法でバッファ層を種々変化させて特性調査。中間層の材質と薄膜形成法で緻密な中間層が出来たり、ポーラスになる。電子ビーム蒸着で薄いCeO2でも緻密、YSZは厚くしてもポーラス。YSZはRFスパッタなら厚くして緻密になる。長尺化は企業で実施中。(ORNL・Paranthaman)

(夏休み)

                        本報告ではバルク関係の発表について紹介する。  ETH ZurichのKarpinskiらは高圧合成したHg系単結晶の超電導特性、特に異方性について報告した。この中で、従来報告されているRe添加によるピン止め特性(不可逆磁場)の向上は正しい結論ではないという見解を示した。これに対し、Houston大学のChu教授は、Re添加が東大グループの研究であることをまず指摘し(Karpinskiが東大グループの論文を引用しなかったため)、なぜRe添加に関して違った結論が得られたのかを質した。Karpinskiは多結晶体では異方性のため正確な結論は得られないことを指摘し、単結晶で比較すると、Re添加によるピン止め向上は観察されなかったことを紹介した。また、Hg1212 とHg1234が一層ごとに積層しHg1212/1234を基本格子とした新構造が存在することも紹介した。ただし、Re添加効果について結論を出すには、さらなる研究が必要であろう。

 超電導工学研究所の村上らは、最近のRE123 (RE:希土類元素)系バルク材料の開発状況を紹介し、Y系では直径が10cmに達する単一ドメインバルク体が製造され、試験的に販売(同和鉱業および新日本製鉄)されていること、また、50Kでは捕捉磁場10Tが達成され、応用がかなり進展していることを報告した。また、最近注目を集めているRE123(RE: Nd, Sm, Eu, Gd)系材料の現状についても報告し、特にRE元素を複数添加することで、単一系よりも高い臨界電流密度が得られ興味深いが、その機構に関しては明らかになっていない部分が多く、今後の研究が重要であることを指摘した。

 Houston大学のSalamaは、溶融法を利用してY123系において、いろいろな構造を有する粒界からなる双結晶を合成し、必ずしも全ての大傾角粒界が弱結合とはならないと報告した。この結果は、バルクの大型化や次世代線材開発にも重要であると指摘した。Housoton大学のWeinsteinは、溶融法で作製したY123系バルクにUを添加すると、微細なU-Ba-O酸化物が微細に析出して臨界電流が向上するうえ、さらに中性子照射を施すと、これらU化合物からフィッショントラックによるランダム方位の欠陥が生成し、臨界電流が飛躍的に向上する(77Kで30万A/cm2)ことを報告した。

 Barcelona大学のPinolらは、空気中で一方向凝固法で製造したNd123系では、比較的高い臨界温度が得られるものの、ピーク効果は得られないことを報告した。

 基礎研究を除くと、実用的観点からはバルク分野の研究は溶融法で作製したRE123系に関するものが殆どであった。また、RE(Nd, Sm, Eu, Gd)系では、RE-Ba固溶が存在するうえ、状態図的にも複雑であるため、超電導特性に及ぼす製造条件の影響が大きく、研究グループ間で必ずしも一致した結果が得られていない。今後は、応用を進めるうえでも、より詳細に組織、組成と超電導特性との関係を調べることが必要であろう。

(超電導レビ)