今回の公表は衛星搭載の高温超電導フィルターを目指し、その薄膜材料として液相成長法を用いた4段フィルターを作成し、10GHz帯におけるハイパワー特性評価を行ったことであるが、そのマイクロ波入出力パワー特性評価結果の詳細は来る9月29日から山梨大学で開催される電子情報通信学会のシンポジューム「SC-4超電導マイクロ波デバイスの移動体通信応用」で報告されるとのことである。
特徴を列記してみると以下のようになる。従来のスパッタリング法やレーザーアブレーション法による高温超電導膜は結晶粒界が多く、その超電導の弱結合部により高調波雑音が発生するが、液相成長法によるものは、複数の単結晶領域から成り、各単結晶同士の傾角が非常に小さいので、結晶粒界が極めて少ない。臨界電流密度が大きく大電力対応が可能であるとともに、高調波雑音を極めて大幅に低減することができ、混信特性の向上に結びつくと期待できる。さらに従来の成膜法においては、膜厚の増加とともにその結晶性が劣化するのに対し、液相成長法は、膜厚を増加しても結晶性が劣化しないため、より高い温度での動作が可能となり、冷凍機に対する負担を軽減することが出来る。作成したフィルターは、MgO基板上における液相成長法のYBCO薄膜をもちいて、中心周波数が約10GHzの4段フィルターであった。図1は作成した4段フィルターのチップ外観と、それを搭載したパッケージ外観写真である。チップ外観写真では、フィルター形状が良くみえるように、MgO基板の裏面の超電導膜は取り除いてある。
図2に77 Kにおける、3次の相互混変調特性の入出力パワー特性を示す。インターセプトポイント(基本波と3次高調波のパワー特性直線が交わるマイクロ波パワーの値)が65dBm(3300ワット)と大きな値を示している。
パターン形状は円形にしたりせず、通常の4分の1波長結合・2分の1波長共振で、内部も外部も50オームのインピーダンスとしている。その理由は、マイクロ波入出力パワー特性と液相薄膜成長法の相関を確認するにあたり、パターン形状の工夫をすると、超電導薄膜の差異が原因か、パターン形状の設計性が原因かの区別が分かりにくくなるからということである。パターン形状を幅広にしたり円形にしたりすることにより、電流分布を拡散し内部インピーダンスを小さくすれば更に特性は向上するそうである。
新聞を読んでの感想を述べてみたい。高温超電導体デバイス応用は移動体通信の基地局用フィルターとして、実用化のためのフィールドテストが日米で現在なされている。次の段階として、低損失と冷凍機を含めても小型軽量であるとの特徴が今回さらに明らかになり、宇宙衛星を用いた移動体通信への応用が現実的な課題となってきたといえよう。
(述懐投筆)
図2 動作温度77Kの10GHz入出力パワー特性