近年、世の中では光通信や高速の半導体LSIに代表されるように様々な電気現象を高速で測定しようという要求が高まってきている。これに対し現在半導体素子を用いたサンプラーが用いられてるが、半導体サンプラーは電圧を測定しており、電流を直接測定することができない。
従って、被測定物のインピーダンスがわからない場合は、半導体サンプラーでそこを流れる電流を測定することは不可能であった。
例えば、半導体LSIやプリント基板は複雑な層構造やviaホールのために一般にインピーダンスは既知ではない。従って、半導体サンプラーによる電圧測定からこれらの配線を流れる電流を求めることはできない。一方、動作速度の高速化にともない、これらの配線に流れる電流を測定することが、回路設計やEM対策上ますます重要となってきている。しかし、現在は測定方法がないため、問題点として指摘されているのみで放置されている状態である。このため電流を直接測定できる高温超伝導サンプラーの開発が待たれていた。
高温超伝導サンプラーを実現するには、多層構造の集積回路が不可欠であったが、複雑な結晶構造を有する高温超伝導体を用いた多層構造の形成は難しく、現在までにその高速動作まで実証された高温超伝導集積回路は存在しなかった。そのため、高温超伝導集積回路を可能にするプロセス技術の開発と、高速動作の実証が望まれていた。
NECではかねてから、これらの問題を解決するための研究開発を進めてきたが、単一磁束量子(SFQ)を情報媒体とした回路技術の開発、均一な特性が得られるジョセフソン接合形成法を含む多層高温超伝導回路プロセス技術の開発、超伝導回路の超高速性を引き出す周辺エレクトロニクスの開発などにより高温超伝導サンプラー回路の高速動作を実証することができた。日高睦夫氏は「このサンプラーは高温超伝導体を用いた初めての実用回路である。今後は、サンプラーをLSI配線の高時間精度電流計測に適用し、今まで不可能であった測定を可能にすることで、高温超伝導回路の優位性を示していきたい」と語っている。NECでは今後この回路を用いた計測システムを構築していくことを予定している。
(MH)