SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

8. HTSを用いた新しい"永久磁石"を発明!
―MITマグネット研究所―


 このほど、MIT(マサチューセッツ工科大学)のマグネット研究所岩佐グループが、鉄永久磁石の単純・容易さと電磁石の多様な高磁場発生能力を兼ね備える"永久"高温超伝導(HTS)磁石システムを発明したことが明らかになった。本磁石システムでは、いったん所望の磁場に励磁すれば、この磁場は用途により数時間から数ヶ月間、冷却源に接続することなく維持される、というもの。

 超伝導磁石の基本要件の一つは、磁場強度を一定に保つために、動作温度を一定に維持することである。MITマグネット研の岩佐博士によれば、従来低温超伝導(LTS)磁石にとっては、この要件は特別に厳しく、I K程度しか温度変動は許されなかった。しかしながらある応用及び設計に対して、HTS磁石では50 Kに亘る変化が許されそうであり、LTS磁石に比べより多様な条件で稼動させる可能性を有している。

 マグネット研設計の核心は、HTSを用いた電磁石がHTSバルク磁石であり、両方とも永久モードで運転できる。岩佐博士は、HTS永久磁石の革新的特徴を次のように語った。

1) 磁石の動作温度が初期段階の20 Kから最終段階の60 Kまで変動するのを許容する可能性。

2) この温度範囲内で冷却体が上下変動を繰り返すことを許容する再冷却能力、その結果長時間に亘って磁場を一定に保持する。

3) 重量を最小限に抑えながら、余分な蓄熱体を附加し、冷却体の総合熱容量を増加させ得る。固体窒素がこの蓄熱体として有望と考えられている。

4) 冷却体に入り込む熱流入及び内部発熱を極小化する。

 図1に図描されるように、本システムは室温の密閉物により包まれた真空空間に設置した冷却体より構成される。冷却体の重要部品は、@HTS磁石A磁場分布整形用鉄ヨーク(オプション)B蓄熱体等である。この冷却体は、2つの出入通路を通じて室温空間に連結される。即ち、1つは冷却体を冷却源に接続する為の通路、他はHTS磁石を電源に接続するものである。

 本システムに於ける重要運転パラメータの一つは、再冷却一再冷却間隔(RRTP)であり、本磁石を如何に度々再冷却しなければいけないかである。RRTPは、冷却体の熱容量と冷却体への熱流入及び発熱の関数である。余分な蓄熱体の附加が、本システムのRRTPを増すために提案されている。

 岩佐博士によれば、可能性のあるHTS永久磁石の可搬応用として、磁気浮上列車(数時間のRRTP必要)、機雷対抗ヘリコプターと船舶(数時間のRRTP必要)、磁場及び実験機器(数時間〜数日のRRTP必要)、宇宙船(数週〜数年の寿命必要)等が挙げられる。

 MITは、本設計についてこの3月にUS特許を取得した。将来、本磁石に関する研究・開発により、磁石内の発熱に寄与するACや接続損失を最適化して、RRTPの極大化を達成できるだろう。

 さらに、岩佐グループは、長期間接続する温度サイクルが磁場品質に与える空間的並に時間的影響を研究する予定である。これらの影響はまだ、良く理解されていないからである。

 今回の開発に関し、東芝電力産業システム技術開発センター前田グループ長は次のようにコメントしている。「高温超電導磁石を温度一定では無く、温度を変化させながら使うという のは、高温超電導体の特徴を最大限に生かした新しい発想で興味深い。将来的にこの様な方式を導入することにより、冷却することのストレスを全く感じさせないような使い易い超電導磁石システムが実現していくと考えられる。マインスイープや磁気浮上などの領域での早期実現を期待したい。」

(高麗山)