SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 3, Jun. 1998.


6. 超電導マグネット用に超省エネタイプの                   小型冷凍機を開発
-液体ヘリウム温度での冷凍効率を従来の3倍以上に向上-


 (株)東芝と東工大総合理工学研究科椛島教授は共同で、液体ヘリウム温度(絶対温度4.2ケルビン)の超電導マグネットを冷却するためのGM(ギフォード・マクマホン)サイクル方式の小型極低温冷凍機において、従来の3倍以上の世界最高の冷凍効率(*)を達成した。

 これにより、MRI(磁気共鳴を用いた断層診断装置)や医療用の加速器、シリコン単結晶生成用等の産業応用から大学・研究機関向けまで幅広い用途を持つ冷凍機冷却式超電導マグネットのランニングコスト(電気代)をこれまでの3分の1以下、年間で最大数百万円程度低減できる見込み。今後高価な液体リウムや冷凍機のランニングコストの高さがネックとなっていた超電導マグネットの普及が一段と加速していくと考えられる。

 今回開発に成功したGMサイクル冷凍機は、小型のみならず中大型マグネットまで冷却可能な液体ヘリウム温度(4.2ケルビン)で2Wという大きな冷凍能力を持っているが、冷凍効率の向上により冷凍機の運転電力は従来の12KWから3.3KWと三分の一以下に省エネルギー化された。さらに冷凍機の運転音も非常に静かになるとともに、価格も冷凍機用コンプレッサの小容量化等により従来製品に比べて低減できる見込みである。

 GMサイクル冷凍機は常温のコンプレッサにて2MPa以上に圧縮された高圧ヘリウムガスを、冷凍機本体側の蓄冷型熱交換器に導いて極低温温度まで冷やした後、一気に1MPa以下まで膨張させて冷凍を行う。構造が簡単で信頼性が高く、コンプレッサの起動スイッチを入れるだけで簡便に極低温まで到達できるため汎用の極低温冷凍機として現在広く普及している。今回次の様な方策を本冷凍機に適用することにより、従来の3倍以上の大型ヘリウム液化機に匹敵する高い冷凍効率を達成した。

(1)液体ヘリウム温度近くになると、ヘリウムガスは気体状態(理想ガス)から圧縮性の無い液体に近い状態(非理想ガス)へと変化する。蓄冷器の中にこの液体に近い状態と気体状態の境目(インターフェイス)があると考えてシミュレーションを行なったところ、冷凍効率が最大となるインターフェイスの最適位置があることを見出した。

(2)GMサイクルのサイクル効率は、圧縮比の低下とともに効率が上昇することが知られている。この考え方に基づいて、従来の圧縮比(3〜4)を2程度まで低圧縮比化することにより効率をさらに向上させた。

 現在では液体ヘリウム温度以下にまで簡単に到達するGMサイクル冷凍機も、もともとの冷凍温度は液体水素温度(20ケルビン)レベルであった。同社は東工大理学部と共同で、いち早く蓄冷型熱交換器の材料を従来の鉛から新開発の液体ヘリウム温度域でも大きな熱容量を持つ磁性材料エルビゥム3ニッケル(Er3Ni) に代えることにより、88年に世界で初めて5ケルビン代に到達した。その後冷凍機の性能向上をはかり、93年には液体ヘリウム温度で1.2Wの冷凍能力を達成した。さらに同年液体ヘリウムを全く用いずに超電導コイルをGMサイクル冷凍機のみで冷却する冷凍機冷却式の超電導マグネットを世界に先駆けて開発した。この方式の超電導マグネットは冷凍機の起動スイッチを入れるのみと操作が簡単で小型、低価格等の特徴を持つため現在世の中に広く普及し始めている。今回冷凍機の高効率化を達成したことにより、今後冷凍機冷却式超電導マグネットのランニングコストも大幅に引き下げることが可能となる。

 同社は今回新たに開発した冷凍能力2Wの冷凍機以外にも、今回用いた技術を膨張容積の異なる他の冷凍機に適用することにより、既に液体ヘリウム温度で冷凍能力1W(運転電力2.2KW)、0.3W(同500W)の高効率冷凍機の開発にも成功している。今後これらの冷凍機を大小の冷凍機冷却型の超電導マグネットや各種極低温センサーの冷却用等向けに広く普及させていく予定である。(クライオメイト)

 * 冷凍効率:液体ヘリウム温度での冷凍能力(W)とコンプレッサ の運転電力(KW)の比、通常は成績係数(COP)と呼ばれる。



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