SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 3, Jun. 1998.

2.新超伝導光融合研究分野を提唱
__ 大阪大学超伝導エレクトロニクス研究センター __


 大阪大学超伝導エレクトロニクス研究センター萩行正憲教授、斗内政吉助教授らのグループは、新しい研究分野として、「超高速超伝導オプトエレクトロニクス」の開拓を進めているが、今回その研究展望を明らかにした。

 同グループは、1995年にフェムト秒レーザー励起による酸化物高温超伝導体からのテラヘルツ電磁波放射に世界で初めて成功した。その後の成果から、この研究が物理学から応用まで広域の分野をカバーしていることが徐々に明らかとなってきた。

 その展望は図のようにまとめることができる。まず、基本的原理として2つの柱を挙げている。一つは、超伝導体からテラヘルツ電磁波が放射できるという事実である。この現象は、現在重要とされているマイクロ波フォトニクスに直結するテーマであり、光・マイクロ波変換素子回路や屋内通信への展開の可能性がある。同様な電磁波放射は半導体素子を用いても研究されているが、超伝導体では1.55μmなどの光通信用の波長も取り扱える可能性があり、大きなメリットを持っている。また現在は、パルス光を用いているが、LDレーザーを用いたフォトミキシングにより波長可変のCW電磁波放射システムへも展開できると考えている。放射されるパルス電磁波は、数10GHzから3THzに広がる周波数成分を有する広帯域電磁波ソースであり、現在重要視されている新材料の高周波物性評価に適した分光や非破壊検査システム等を容易に構築できる。また新機能デバイスとしては、波長可変局部発振器やチューナブルフィルターなど高周波要素デバイスを提供できる可能性がある。

 もう一つの基本原理は、光により超伝導電流を変調できる機能である。この現象は、同グループがテラヘルツ電磁波放射現象を説明するために導入した新しいモデルであるが、徐々に認知されつつある。その現象が、事実とすれば、高速光電流変調がもたらす研究分野は、更に広がる可能性を持っている。物理学の興味からは、高温超伝導体中の電荷のダイナミックスを直接放射電磁波波形から議論することができる。

 応用面からは、超伝導論理回路への光インターフェイス等へも展開できるのではないかと考えている。更に同グループのユニークな研究として、超伝導光磁束トラップメモリーがある。発想は、フェムト秒光パルスによる超伝導電流の部分変調により超伝導性を維持したまま、超伝導ループ中の磁束誘起・変調・消滅を行おうとするもので、高速光信号を蓄積できることで、光の分野で重要とされている光メモリーのコンポーネントを提供できると提案しているが、更に興味あるものとして、量子化状態が光により変調される様子をダイナミックに観測できる可能性があることである。現在の光計測技術を用いれば、変調される様子を放射される電磁波を通して、瞬間の情報として観測できるからである。現在までに固体中の量子状態変化をダイナミックに観測する試みはなく、超伝導においてもそのような理論的背景すら検討されたこともない課題である。それら以外にも研究課題が続々と指摘されており、大きな分野への発展が期待される。

 同グループ萩行教授は「こんなにエキサイティングなオリジナル研究に取り組む事ができることは、科学者として最高の幸せである。ただ、このような大きな課題に取り組んでいるのが、世界で我々のグループだけとは残念である。我々のシステムはできうる限り開放する準備があるし、予算に余裕のある方で同様なシステムを構築される方は、ノウハウをすべて提供する事もできます。ご興味をもたれる方は、ぜひ 我々にコンタクトをとってほしい。」と新しい分野への参入を呼びかけている。

(大魔王)



図 超高速超伝導オプトエレクトロニクスへの研究展望