理想的な薄膜においては、完全正弦波の入力は同一の完全正弦波出力をもたらす。しかし、薄膜の非直線性は元の正弦波出力と共に3次高調波などの高調波成分を産み出す。例えば、35 GHZの正弦波による出力は、35GHZ出力だけでなく105 GHZの附加的出力成分を産み出すのである。無線通信での結果は、信号が他の波長帯に混入し、他の周波数帯での干渉を引き起こすものである。また、非直線性は割り当て周波数帯内での望ましくない虚偽信号を創り出すことも出来る。非直線性の影響を最小限にすれば、他の周波数帯での偽似信号発生が減少し、より良好な電力制御が可能となる。より大きな電流を薄膜中に循環させられるからである。
ベル研グループは、温度及び入電力の関数として、高調波信号発生の測定に成功している。Batloggは、"この仕事はこれまで行われたことがない重要且つ体系的な研究であり、当産業に衝撃を与える重要な知見を生んでおり、HTSフィルター部品製造法の改良に導くものである。これら修正の結果、性能・特性改善したフィルターの設計法改良に繋がった"、と語った。
これら研究結果の主要なものは、非直線性が殆んど例外なく、材料にとって非本質的性質によって引き起こされると云う発見であった。すなわち、非本質的性質はYBCO単結晶中では出現しないが、薄膜中の磁界や弱結合など構造的性質の相乗的結果として起きるからである。非直線性の第2の起源は、薄膜の端部を流れるRF(ラジオ周波数)電流に関係している。Batloggは、"我々は、フィルターの端部において、小電流密度になっているものが最小の高調波効果を示すことを発見した。新しい設計法では、電流密度を小さくし、電流の端部への集中を最小にしている。我々の結論は、非直線性効果は高い温度と低い温度の両方で増加すること、従ってYBCOの最適温度は、40 Kと60Kとの中間にある"とコメントしている。
ベル研は、無線通信向けにHTS技術開発に継続して取り組んできた。'96年5月Conductus社とLucent社は、PCS用フィルターの共同開発契約にサインした。'96年4月 ConductusがLucent社へ納入した、CTI製冷凍機を組み込んだ電柱搭載型移動体通信用フィルターのテストを開始した。しかし、それ以来Lucentはフィルター製作及び商用化活動から遠ざかっており、主として物理学的研究に焦点を絞っている。ベル研のHTS研究・開発活動は極めて活発であるが、将来における商用化構想は何も公表されていない。
(相模)