SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 3, Jun. 1998.

16. 高温超伝導フィルタとLNAを内蔵した
        移動体通信用受信システムを開発

―移動体通信先端技術研究所―


 株式会社移動体通信先端技術研究所(AMTEL)では高周波領域における高温超伝導体(High Temperature Superconductor、以下HTSと略す)の優れた特性に着目して、高能率移動体通信のシステムを構成する画期的キーデバイスを実現させるべくHTS高周波フィルタの実用化研究とこのフィルタを移動体通信に応用する研究を行っている。

 移動体通信における高周波フィルタの役割は、必要な信号と不要な信号を周波数分離することである。しかしながら従来から使用されている空洞共振器や誘導体共振器を用いたフィルタでは、金属材料が有する特性の限界から、高い周波数分離特性を持つ多段でシャープスカートなフィルタを設計すると損失が増大して熱雑音の増加を招き、結果として微弱な信号は熱雑音に埋もれて通信品質を劣化させてしまうといった問題が存在する。原理的に電気抵抗がゼロであるHTSを用いれば低損失で多段のシャープスカートフィルタを実現することが可能になる。これにより他システムとの干渉を大幅に低減できる。さらにHTSフィルタと低雑音増幅器(LNA)を同時に冷却することでフィルタの損失とLNAの熱雑音が大幅に低減される。したがってシステム全体の低雑音化を図ることができ、高品位通信が可能となる。

 AMTELでは800MHZ帯のIS-95移動体通信基地局用としてHTS受信フィルタシステム(写真1)を開発した。断熱用の真空チャンバ内には11段のHTS受信フィルタとLNAが組み込まれており、小型冷却器によって絶対温度70Kに冷却されている。フィルタは誘導体基板上に超伝導薄膜で形成したヘアピン型の共振素子が11個配列されている。共振素子は電流の集中を緩和する構造になっており、耐電力性能の向上を図っている。また基板とケースとの熱膨張係数の差によって冷却時に発生する応力を緩和するように基板実装に工夫を凝らしている。室温部と低温部の信号の接続には電気的には低損失で熱的には室温部からの熱流入を押さえた薄膜同軸ケーブルと呼ばれる特殊なケーブルを用いている。このHTSフィルタシステムの性能は雑音指数と呼ばれる指標で0.5dB(デシベル)であり、従来のシステム(3dB以上)と比べて飛躍的に向上している。今回試作したHTSフィルタシステムに搭載した小型冷却器はスターリング型と呼ばれる冷却方式を採用しているが、実用化を考えさらに長寿命化が期待できるパルス管型冷却器(写真2)を開発中である。この冷却器の圧縮機はボイスコイルを特殊な板バネで支持することで摺動部を完全に排除した構成をとっている。

 代表取締役常務の青木賢之氏は、「革新的な技術を実用化するときに忘れてならないのは、使い手が何を望み、何を心配しているかを十分に理解することである。技術者が陥りがちな独りよがりは厳に慎むべきである。」とコメントしている。

(エベレスト)