SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 3, Jun. 1998.

14.レーザービーム走査で超伝導電流分布の可視化
_阪大超伝導センターと通信総研究所関西_


 大阪大学超伝導エレクトロニクス研究センターと郵政省通信総合研究所関西先端研究センターの共同研究グループは、高温超伝導体中の超伝導電流が光パルスにより変調されテラヘルツ電磁波が放射される現象を利用して、薄膜中の超伝導電流の2次元分布を可視化することに成功した。

 同グループは、平成7年にバイアス電流を流した高温超伝導薄膜に超短光パルス(フェムト秒レーザー)を照射すると時間幅0.45ピコ秒の電磁波パルス(周波数スペクトルがテラヘルツ域に達することからテラヘルツ電磁波と呼ばれる)が放射されることを発見、その後、磁場に関連した非常に興味深い現象や磁束トラップメモリの提案、試作など次々と新しい成果を発表してきた。今回は、放射されるテラヘルツ電磁波の振幅がレーザービーム照射位置の電流密度に比例することを利用し、レーザービームを走査しながらテラヘルツ波の振幅を測定することにより、超伝導薄膜中を流れる超伝導電流の2次元分布を測定することに成功した。図1は測定の概念図である。試料はボウタイアンテナ型超伝導テラヘルツ放射素子で、330 mAのバイアス電流を流してある。平均出力40 mWのフェムト秒レーザーを集光レンズで約30 mmに絞り2次元的に走査し(実際には特殊なクライオスタットの試料ステージを移動)、放射電磁波の振幅を低温成長ガリウムヒ素製の超高速光伝導検知器で検出している。図2は測定結果である。

 色の濃い部分がテラヘルツ波の振幅の大きなところ(超伝導電流密度が高いところ)であるが、超伝導電流が超伝導膜の端に沿って流れているのがわかる。同グループはさらに、MgO半球レンズを基板裏側に接着することによって、素子のブリッジ部の電流分布を詳しく測定しており、その結果によると電流増加あるいは温度の上昇により次第に素子の内側にも電流が流れる様子がとらえられた。

 超伝導エレクトロニクス研究センターの斗内助教授は、「今回用いた検出器は低温成長ガリウムヒ素で作られた光伝導アンテナであるが、この検出器の特徴のひとつはテラヘルツ波の特定の偏光成分のみを検出する点である。放射される電磁波は超伝導電流の方向に偏光しているので、テラヘルツ波の偏光方向を調べることにより電流のベクトル方向も測定できる。実際、図2でアンテナの向きを90度回転すると全く異なる分布が得られる。現在、特殊な構造の検出器を用いて超伝導電流のベクトルマッピングを行う実験を進めており、近い将来その結果が発表できると思う。また、空間分解能は現在レーザースポット径で決まっており約30 mmであるが、これも測定法の新しいアイデアにより将来はミクロンオーダーまで改善できるであろう。」と話している。

 また、同センターの萩行教授は、「これまで、フェムト秒レーザー励起によるテラヘルツ放射現象について、テラヘルツ放射源、メモリ応用、非平衡超伝導状態の緩和の物理など種々の観点から研究を進めてきたが、今回、超伝導電流分布を非接触で直接測定するという材料評価法としての新しい応用展開がひらけてきた(従来、電流分布は磁気光学効果やマイクロSQUIDで磁場を測定し、それから電流分布を算出していた)。超伝導遮蔽電流や磁束トラップに伴う永久電流分布についてもこの方法での測定結果が出つつある。他にもいろいろな関連研究を進めており、光照射による高温超伝導体の光応答とテラヘルツ電磁波放射が太い幹を持った研究テーマであることを示したい。」と話している。

(RCSUPER)



図1 レーザー走査によるテラヘルツ電磁波放射を利用した超伝導電流分布測定の模式図



図2 ボウタイアンテナ型素子から放射されたテラヘルツ波振幅の分布(超伝導電流の分布)