SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

7.「二次元を超えるか」梯子格子系で始めて超伝導を実現


Q「先生のグループはほぼ一年半前に、梯子格子系物質(SrCa)14Cu24O41で超伝導を実現されたわけですが、その後の発展をお聞かせ下さい」

A「その前に「スーパーコム」でこの様な企画をしていただいたことに感謝致します。梯子格子系は見つけられた当初、この系が本当に超伝導になっているか疑いを持つ人も多かったのですが、その後無機材研での精密な構造の解析 (本誌Vol.6, No.4)、他の研究機関での超伝導の再現、我々の単結晶を使った実験でも100%再現していることから超伝導自身はほぼ疑いないと思われます。超伝導の性質は圧力をかけないと実現しないため、進歩は遅々としていますが、それでも北は北海道大学から西は広島大学まで多くのグループが研究に参加されております。最近では、アメリカ、フランス、ドイツでも多くのグループがこの系の研究を始めております」

Q「最近の大きな進歩は何でしょうか」

A「梯子格子系は一次元と二次元の中間的な系なので、それ自身面白いと思っておりますが、「二次元CuO2面を持つ超伝導体」という大先輩がおりますのでそれとの比較で論ずるのがやはりわかり易いでしょう。ここでは、最近の流行にのっとって「電荷 (charge)」と「スピン (spin)」にわけて述べてみましょう。

 「電荷」については東大物性研究所の毛利信男教授のグループと東大工学部の内田慎一教授のグループとの共同研究で高圧下で電気抵抗を測りました。それによると梯子方向 (c軸)は常圧下でもすでに金属的で3.5 Gpaで超伝導に転移します。又一方、梯子と垂直方向 (a軸)は半導体的ですが、次第に金属的になり同時に超伝導が出現します。つまり電気抵抗の異方性ra/rcは最初大きくなり、主にc軸方向に流れていた電荷は圧力がふえるにつれ梯子格子間にも流れるようになり、同時に超伝導が出現します」

Q「それでは従来のCuO2面と同じというわけですね」

A「私が「超伝導のステージは二次元である」というものですから、なんだかCuO2面と同じという印象を多くの人が持たれたようです。この間、梯子格子の理論的リーダーであるD氏に会ったら「誤解を生むからあまり二次元性を強調するな」(笑)と言われました。これは勿論冗談ですが、しかし超伝導状態でも異方性は30位あり、純粋な二次元系とはとても言えません。私が強調したいことは「梯子格子内での電荷の閉じ込め」が開放された時超伝導が出現するので、その意味では二次元的であると言えるでしょう」

Q「スピンの方は如何でしょう」

A「スピンの方はよりdramaticです。まず、この系は本質的に一重項状態を形成してスピンギャップを持っており、Ca濃度をかえてもそんなにひどくギャップの大きさは変わりません。驚くべきことに2GPa位までの圧力下でもギャップの大きさはあまり変わらないらしいという結果が、最近阪大基礎工の北岡良雄教授のグループで得られました。ただし、超伝導状態ではギャップはなくなるという報告もあり今後の課題です。それと最近、東北大学金研の世良正文助教授のグループが比熱の測定で反強磁性秩序をみつけました。スピンギャップが存在するのに反強磁性秩序があるのはどういうことだという疑問をお持ちの方も多いと思いますが、ホールを導入することによって一部一重項状態がこわれ、生き残ったスピンがオーダーしていると考えると理解しやすいでしょう」

Q「人間社会に例えれば、恋人同志が手をつないでいる(スピンギャップの形成)中に時々あぶれた一人者(スピン)がいる(笑)と思えばよいのでしょうか」

A「ええ、そんなイメージでよいと思います。その上、あぶれた者同志が団結してオーダーする(笑)。ともあれ大変面白い状態が実現していることは確かです」

Q「将来残された問題はなんでしょうか」

A「一番大きな問題はやはり、超伝導状態の性質です。対称性はd波だと理論的に言われていますが、Tcが低いことから、普通の超伝導だという人もあり、今後の課題でしょう。次に重要なのは「スピンギャップ」と超伝導の関係です。前述べました様にフランスのJeromeのグループが「超伝導状態ではスピンギャップはない」という論文を発表し我々も一時ガックリしましたが(笑)、事態はそう簡単ではないと思うようになりました。それとこの系は圧力をかけてゆくとTcは再びさがりますがその原因の解明です。これもスピンギャップがどの領域まで残っているかに関係しているのでしょう。最後にもっとambitiousなテーマは、やはり常圧でより高いTcを持つ梯子系物質の創生でしょう」

Q「Tcがこんなに低く(Tc=12 K)、かつ圧力をかけなくてはだめというのではつまらない(笑)という人も多いようですが」

A「それは生まれたばかりの子に"しゃべれない"といって非難するのと似ています。しかし、その批判はあたっていることはまちがいありませんので、その批判をバネにして新物質の創生にむけて頑張ることにしましょう。ともあれ、非常に大きなJ(磁気的相互作用)を持っていることから、少なくとも従来の高温超伝導体と同じ程度のTcを期待されていることはまちがいありません」

Q「どうもありがとうございました。最後に梯子格子系での"日本物理学会論文賞"おめでとうございます」

A「ありがとうございます。これは勿論、私の研究室の上原政智君(現日本学術振興会特別研究員)永田貴志君、東大物性研究所の毛利信男教授、高橋博樹氏(現日大文理学部)、NTTの木下恭一氏との共同受賞です。特に毛利信男教授には感謝申し上げたいと思います。最新の装置を持つ共同利用研と一私立大学の新物質作成がうまくカップルした良い例だと思います。超伝導研究でこういうケースが日本で拡がることを期待しています」

(魯迅)