磁気浮上システムに関する研究は高温超電導体の強いピンニング力を利用することにより実用への目途がたったものであり、特に永久磁石とバルク超電導体の組み合わせによる、摩擦のない磁気ベアリングや電力貯蔵用の超電導フライホイールなどの研究に代表されるように、世界で活発に応用研究が行われている。これらが本格的に実用化されれば、エネルギー消費の低減あるいはエネルギーの効率的利用が進むため、期待は非常に高い。特に限りあるエネルギー資源の有効利用のためにもフライホイールの実用化には社会的な要請もある。さらに本研究では、浮上高さを制御できるシステムにより小形、強力な搬送装置などへの応用を目指している。
これまでは、マサチューセッツ工科大学において銅コイルを外部磁場供給源とした簡易的な浮上実験装置において基礎的な研究を行ってきた。平成8年からスタートした共同研究では、安定浮上のためには、最初にある大きさの磁束をバルク体にトラップすることが必要であることなどを明らかにした。平成9年度には、バルク体の浮上高さを10 cm程度まで増大する事を目的として、大口径の浮上用超電導電磁石を製作した。この浮上用超電導電磁石は銀シースのBi-2223線材を用いており、クライオスタットに内蔵され、冷凍機で15 Kから30 Kの温度範囲で直接冷却されており、発生最大磁場は中心磁場で0.19 Tである。また、クライオスタットの室温ボアが280 mm、巻線内径が400 mm、巻線外径が517 mmとなっている。電気抵抗がある銅コイルを用いるのに比べ、低消費電力での運転とコイルの通電電流を短時間で変化させることが可能になり、長時間、信頼性の高い浮上制御を実現できた。また、この電磁石上で直径4〜10 cm(最大1 kg)のYBCOバルク体を、外部磁場を変化することにより、最大10 cmの浮上高さの制御に成功した。その背景には、高性能かつ特性が均一な大形バルク超電導体が作成できるようになったこと、また複数の電磁石を用いることで磁場分布の制御に成功した点が挙げられる。
超電導工学研究所の村上雅人部長は「この浮上距離制御の実現により、高さ制御といった点の応用のみならず、複数のコイルを用いることにより、搬送装置などに応用する可能性が膨らんだ」と話している。また、マサチューセッツ工科大学の岩佐幸和教授によると、「本磁気浮上システムにおいて、単体のバルク超電導体を複数組み合わせ、電磁石による外部磁場をさらに増大させれば、かなりの重量物の安定した浮上制御が可能になる」とのことであった。
今後、横綱「曙」を乗せて、自由に浮上高さがコントロールできるシステムの実現も夢ではないと思われる。
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