SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

4. 米国エネルギー省の超伝導関連予算が急増中!


 最近における米国エネルギー省(DOE)のいくつかの発表から、米国政府の高温超伝導(HTS)振興施策に対する積極的姿勢がいっそう鮮明になってきた。DOEの超伝導研究・開発関連予算は、FY97(年度)の19M$(約24億円)からFY98の32.5M$(約40億円)に71%増額し、現在実施中である。最新のDOE発表によれば、電力技術関連のFY99概算予算として32M$を議会へ要請したという。この概算要求は、すくなくとも3つの新しいSPI(Superconductivity Partnership Initiative)プロジェクトを支援するものである。3つのプロジェクトには、@液体窒素温度で稼動する世界初の高磁場マグネットの製作、A超伝導電力ケーブルの建設および実地テストの実施、B2002年までに大幅な性能向上及び低コスト化した厚膜テープ導体の商用化実現、等が含まれる。SPI予算については、FY97の 9.5M$からFY98の14.5M$に増額し、FY99年度14M$の水準を保持する予定という。

 電力技術庁副長官のA. Hoffman氏は、「この概算要求の実現性について楽観しており、議会はFY97から大幅に増額したFY98計画・予算を受け入れてくれたし、FY99概算要求もFY98とほぼ同額であるので、間違いなく承認されるだろう」と語った。さらに「これら超伝導技術は、米国の最も重要な国策であるCO2排気ガスの削減、送電線路の大容量化及び効率向上等に対する有効な解決策になるだろう」とコメントしている。また、このような開発費予算の増加には97年に成立したConsumer's Electric Power法の効果が大きいといえそうだ。

 SPIプロジェクト6件の資金配分決定(総額59億円)

 DOEは、2月初旬、超伝導パートナーシップ推進計画(SPI)に関して、6件(新規3件、継続3件)の省エネプロジェクトが採択されたと発表した。6件のプロジェクトは、総額47M$(約59億円)で5年以上継続する超伝導技術開発であり、企業が総額の50〜70%を負担する。このHTS計画は、電力システムの効率、信頼性、出力を向上させる先進的な電力配電技術の国家的開発を先導するものである。現在、発電量の最高8%までが送電ロスによって失われている。もし、これらの開発が成功すれば、超伝導技術により電力損失を4%に抑えることができ、化石燃料の消費量と温暖化をもたらす炭酸ガス排出量を削減することができる。DOE秘書官のF.Pena氏は「HTS材料は気候変化に挑戦する強力な武器の一つであり、米国産業に新しい市場を創出する。これらの年率世界市場は2020年までには、少なくとも300億ドル(約3.8兆円)になると見積もられている。

 我が国は現在、超伝導技術開発に関しては既に世界をリードしているが、この新規資金によって、販売活動においても世界をリードする段階に一歩近づいた」と語っている。 6件のSPIプロジェクトは、モータ、限流器、発電機、電力ケーブルの製作を目指すもので各々の資金は2M〜5M$の範囲と見込まれている。

 以下、各プロジェクトについて簡単に紹介する。

 (1) ABB社のPower Transmission & Distribution Co.(ノースカロライナ州)のチームは、10MVAのHTS変圧器の製作を提案している(新規)。パートナーには、ASC(American Superconductor Corp.)、Air Products & Chemicals Inc., Southern California Edison, ロスアラモス国立研が含まれている。開発した変圧器は、2001年6月公益設備に設置される予定。

 (2) Waukesha Electric Systems(ウィスコンシン州)もHTS変圧器を作ろうとしている(継続)。IGC(Intermagnetics General Corp.)、Rochester Gas & Electric Corp.、オークリッジ国立研と共同して、5〜10MVAのプロトタイプを試作、試験し、ウィスコンシン電力公益施設に設置する予定である。

 (3) PirelliCable Corp.(カリフォルニア州)は、冷凍技術を含む3相、120mケーブルシステムの継続運転の実証を提案している(継続)。ASC、Detroit Edison,電力研究所(EPRI)、Loteproと共同で、ケーブルシステムを完成させ、Detroit Edisonの既存系統に設置する予定。

 (4) SouthWire Co.(ジョージア州)は、小さな町に電力を供給できる程度の100Ft、3相、HTSケーブルを開発・設置・試験する予定である(継続)。パートナーにはIGC、Midwest Superconductivity Inc.、Southern Company Services、Geogia Transmission Systems、Southern California Edison, オークリッジ及びアルゴンヌ国立研が含まれている。

 (5) DuPont Co.(デラウェア州)は、市販品の1/4の大きさのHTS磁気分離装置を試作する提案をしている(新規)。本技術は危険な材料を分離するということで重要であるだけではなく、化学、及び材料産業にとっても重要である。Carpcoと高磁場国立研がパートナーである。

 (6) Boeing Phantom Worksは、既存のHTSベアリング技術を用いて、10kWhフライホイールエネルギー貯蔵装置を開発し、Southern California Edisonで試験する予定である(新規)。パートナーにはIGC、PraxairCorp.、CryencoInc.、Ashman Technologies、アルゴンヌ国立研が含まれる。

 このDOE計画について、ISTEC超電導工学研究所の田中昭二所長は次のようにコメントしている。「素晴らしいHTS開発計画であり、しかも国家プロジェクトということで敬意を表したい。日本も見習うべきと思う。我々も超伝導技術による省エネ効果の試算をはじめている。HTS技術を大規模電力需要分野に適用するならば、2010年時点の省エネルギー効果は4%に上り、対全電力消費量比率で1%に相当することが判った。米国の低減率4%に比し、少ないようだが、計算方式の違いや適用範囲の違いによると考えている。大口の電力、鉄鋼、化学工業、産業機器分野の対象(10%)を拡げ、日本の特徴である輸送、医療、情報・通信分野への寄与率をもっと考慮すれば2%位に向上すると思う。昨年の京都会議におけるCO26%削減の約束に対し、少なくとも1%を超伝導技術により貢献できるのではないか」

 以上で述べてきた米国政府の意欲的なHTS振興施策に比べて、日本の超伝導関連予算は近年伸び悩み状態であり、積極的な振興施策に乏しい感がある。21世紀に向けて、省エネ・省資源の中核的技術として超伝導技術を位置づけた国策的・振興施策が必須である。産・官・学を挙げての早急なコンセンサス作りが望まれる。

(YF)