SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

3. ヘリウムフリー超伝導磁石の新展開


 磁性蓄熱材を使用した小型冷凍機と高温超伝導パワーリードを用いた液体ヘリウムフリー超伝導磁石の市販が始まって既に3年以上が経過した。初期の頃にはただ単に強い磁場を発生するだけのものだったが、次第に利用者のニーズに合わせて磁場強度や磁場分布、試料空間および形状などがカスタマイズされた多彩な磁石が開発されるようになってきた。これは、この種の磁石の取り扱いが容易なために、これまで強磁場があまり普及していなかった、医学・生物学・材料プロセスなどの幅広い分野からユーザーがあらわれたことによりもたらされたとも言える。また、磁石の多様化が新たなユーザーをさらに掘り起こし、液体ヘリウムフリー磁石は急速に市場に浸透しつつある。既に、国内各メーカーの納入実績および受注残を併せると、その数は120台を超えているという。この間の動向については、本誌でも折りに触れ取り上げてきたが、最近、さらに新たな展開がいくつか見られたので紹介したい。

 まず、(株)神戸製鋼所とジャパンマグネットテクノロジー(株)(JMT)は、価格が1000万円を切る普及型磁石"Heless"を製品化した(販売は大陽東洋酸素(株))。中心最大印加磁場は5 T、励磁所要時間が20分でf 52 mmの鉛直室温ボアを有する。冷凍機やコンプレッサーも含めて実現したこの価格は、このタイプの超伝導磁石開発関係者にとっては驚異的なものとして受け止められているようだ。初期投資額が液体ヘリウム冷却型に比べ大きかったために購入を躊躇していた層にとっては魅力的なものとなるだろう。

 さらに同グループは、永久電流モードで運転可能な冷凍機直冷式超伝導スプリットマグネット(写真)を開発し、通産省工業技術院電子技術総合研究所に納入した。室温貫通ボア径は、ソレノイド方向(鉛直)とギャップ方向(水平)でそれぞれ90 mm, 60 mmで、中心最大磁場は2 T(最大経験磁場は4.6 T)である。主な仕様を表に示す。

 新たに開発された永久電流スイッチ(PCS)は取扱いが簡便な熱制御型で、目標磁場へ到達した後は1~数分程度という速さで永久電流モードに移行できるという。永久電流運転時の磁場安定度は9 ppm/hと、物性用マグネットとして十分な性能を持つ。 付属のバイポーラ型励磁電源(PCSヒータ電源付)、温度モニタはすべてGP−IBにより制御可能で、このシステムを用いた自動計測も容易。本磁石は納入先の電総研超伝導素子機能ラボでは固有ジョセフソン接合の研究等に利用を予定しているということだが、スプリット型でもあることから、今後様々な用途・実験への利用が期待される。

 同グループではこの他にも、名古屋工業技術研究所に10 Tで室温ボア径150 mmの磁石を納入し、このほど励磁試験にパスしたという。 10 T磁石としては100 mmの水平・垂直両用室温ボアを有するものが(株)東芝や住友重機株)からも発売され、現在の主流となっているが、今回の磁石の登場によってボア面積が一挙に2倍以上に拡大されることになり、応用範囲の拡大が期待できる。神鋼グループでは、今後もユーザーの様々な要望に応じた磁場・ボア径に対応してゆきたいとしている。これらに関する問い合わせは、〒651−2271 神戸市西区高塚台1−5−5 (株)神戸製鋼所 開発推進センター 渋谷、伊藤、林の各氏まで。TEL:078-992-5652, FAX:078-992-5734.

 一方、(株)東芝はこのほど、文部省宇宙科学研究所に大型の水平・垂直両用磁石を納入した。室温ボア径は300 mmで、磁石本体が回転可能な水平垂直両用磁石としてはこれまでで最大のもの。印加磁場は最大6 Tで励磁所要時間は40分。コンプレッサーの消費電力が5.3 kWと業界最小の省エネ設計であるのも特徴。同社では、MRIも液体ヘリウムフリー方式で製品化しているのを始め、半導体単結晶引上装置、鉄鋼などの産業分野向けにもこのタイプの磁石の開発を進めているという情報もある。

 また、未確認情報であるが、これまで納入実績のなかったOXFORD社も市販に乗り出し、すでに名古屋市工業試験所の受注を得た模様。OXFORD社は住友重機(株)の冷凍機を搭載するとみられる。

 このタイプの磁石を3年以上、ユーザーとして各種プロセスへの磁気効果研究に使っている東大工学部の廣田憲之助手は「我々の研究室では、東芝と住友重機の製品を使っているが、これまでトラブルも無く、大変重宝し強力な武器になっている。最近では、水平・垂直両用など、液体ヘリウムフリーの特徴を生かした多種多様な磁石が開発され、魅力的な技術になったと思う。価格が下がればユーザーが増加し、量産効果で更なる価格低下を導くので、Helessの登場は嬉しいニュースだ。今後の展開に期待したい」とコメントしている。

(まぐまぐ)



表 無冷媒スプリットマグネットの諸元