SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

2. 世界最大級のSMES我が国初の電力設備として運用開始
− 九州電力 −


 九州電力の超電導エネルギー貯蔵装置(SMES)のモデル機(愛称 "ESK"Experimental SMES of Kyushu Electric Power )は、平成9年8月26日に通産大臣の認可を受け、平成10年3月10日に通産省資源エネルギー庁の使用承認検査に合格した。我が国で初めてSMESが電力設備として認知されたもので、今宿変電所内の総合試験センターにて実証試験設備として運用開始された。

 SMESは、貯蔵効率が高く、電気の貯蔵・放出の高速制御が可能であることから、電力系統の負荷平準化や系統制御など様々なニーズに対応できる電力設備として、早期実用化が期待されているが、容量の拡大や信頼性、コスト低減等の課題も多く、未だ実用化に至っていない。そのため同社では、昭和57年からSMESの研究を開始し、平成2年には有浦川水力発電所で小型SMES(8 Wh)の電力系統連系試験を実施、さらに平成4年から九州大学と共同で小型モジュール構成SMES(10 Wh)の研究が進められてきた。

 平成6年からは、SMESの実用化に必要な技術開発を目指し、世界最大級の貯蔵容量1 kWh、最大出力1,000 kWのモジュール型モデル機の研究開発が4大学(九州大学,大分大学,鹿児島大学,福岡大学)、4メーカー(東芝,日立製作所,富士電機,神戸製鋼所)との産学共同で進められてきた。開発コンセプトは、@大容量化技術への対応、A系統制御用機器として機能面の充実、Bシステムの高信頼度化、C環境に配慮したシステム構成と設定されている。

 装置の特徴は次の通り。:拡張性・信頼性を目指した2モジュール構成(DC500 V, 1000 A定格, 3個のコイルと1台の交直変換装置でモジュールを構成)。漏洩磁界低減のためのトロイダル配置。パルス運転時の損失低減のためのNbTi浸漬冷却のより線導体。電磁力支持を考慮した変形D型(D型の外側部分に直線部を設けた構造)の超電導コイル(6個)。液体ヘリウム量削減、コイルクエンチの波及防止のためのコイル毎のFRP製液体ヘリウム容器。高温超電導体(Bi2212のバルク材)を使用した電流リード。40ι/hのレシプロエンジン方式の冷凍装置。電流型自励式で高調波抑制のための12相整流方式交直変換装置(2台)。2モジュールの系統制御機能、64ch高速計測機能、独自の外部制御機能を装備した監視制御装置。

 SMESの先駆者で、ESK計画のアドバイザーでもある入江冨士男九州大学名誉教授は「小規模ではあるが、私の長年の夢が実現され感激している。これを契機にSMESの研究が躍進し、実用化した社会を見届けたい」と抱負を語っている。設備を視察した電力中央研究所の植田清隆理事は「超電導電力応用にとって歴史に残る大プロジェクトである。今後の性能試験にて、現在の超電導技術で、どの程度SMESの特徴が達成できるかを明確にし、実用化へ向けての課題を提示してくれることを大いに期待したい」と感想を述べている。

 本開発の責任者である超電導グループの堤克哉主席研究員は「今回、実用化に一歩近づいた。しかし、実用化には今回の数百倍以上の容量が必要であり、超電導コイルの大容量化等の技術的課題を解決するとともに、コスト低減が急務である。また、ESKの研究開発により得られた成果は、国のSMES研究開発プロジェクトに積極的に反映させていく予定である」と話している。なお、研究開発には同グループの林秀美、金高仁、三宮庸生、本田和男、今吉忠利のほか、島田一人(東芝)、森本博(日立)、坊野敬昭(富士)、山村秀政(神鋼)の諸氏が主に携わっている。

 今後、6 kV配電線に連系して、モジュールの特性、負荷変動や電圧変動の調整、長時間電力貯蔵、実用化機器としての運用性・保守性・信頼性などSMESの性能や効果を検証・評価する試験を行い、実用化を目指した研究に邁進するとのことである。

(What is ESK)



図1 : ESKの基本回路構成



図2 : ESK設置図