SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

15.高温超電導体のプロセスと臨界電流に関する

国際シンポジウム


《線材関連のトピックス》

 International Symposium of Processing and Critical Current of High Temperature Superconductorsが、1998年2月2日から2月4日までJoyles Hall, Charles Sturt University, Wagga Wagga, NSW, Australiaで開催された。なお、本シンポジウムは、Prof. Shi Xue DOU of Institute for Superconducting & Electronic Materials, University of Wollongongによって主催されたもので、論文数約120件、参加者約90名の規模であった。線材に関するトッピクスを、線材種別(Bi-2223、Bi-2212、RE系、Tl系)順に報告する。

 まず、銀シースBi-2223線に関して、precursorのPb濃度の制御は対象とする磁界領域(D.C.Larbalestier)、合成反応速度論(R.Flukiger)、平衡状態図(P.Majewski)など各立場によって異なった最適濃度になることが明らかにされた。また、臨界電流は、合成反応のみならず塑性加工(S.X.Dou)によっても制御し得ることが明らかにされた。実験事実として、ホットプレス、低温塑性加工、二段熱処理および合成後の冷却速度を組み合わせることによってJc 40 kA/cm2から56.8 kA/cm2か達成できた(S.X.Dou)、原料粉中の2201相、3221相および2212相の量の制御が後の中間加工熱処理プロセスに大きく影響すること(S.X.Dou、R.Zhao、U.Balachandran、H.K.Liu)などが報告された。また、銀線に2223相のprecursorを塗布して銀管に複合する逆複合加工法(U.Balachandran)、潤滑加工法(M.Apperley)、複合シース線材のツイスト加工法(Fisher)などの現状報告があった。さらに、長尺線材のJc特性はWeibull関数で表示でき(Y.Tanaka)、ほとんどのデータがm値を4から6として整理できるとしている。

 つぎに、Bi-2212線材に関して、高Pb濃度の2212相のJc向上は磁化法では確認済みであるが、通電法では確認未了であること(K.Kishio)、銀シース2212相線材の製造プロセスとして部分溶融に先立ち不純物除去のために予備加熱と密度向上のために圧延を実施すると再現性よく高Jc(4.2 K, 10 T)300 kA/cm2が得られる(K.Togano)との報告があった。また、らせん状に層状成長させた結晶におけるピーク効果は表面ピンと酸素欠陥の両方が作用する(X.L.Wang)との報告があった。

 さらに、RE-123線材に関して、室温で面内配向させたYSZならびにCeO2中間層上にマグネトロンIBAD法でY-123相を成膜し、Jc(77 K)300 kA/cm2を達成した(N.Savvides)報告があった。

 イオンビーム蒸着(IBAD)法により、種々の金属および酸化物基盤の上にイットリア安定化ジルコニア (YSZ)をバッファー層として用い、そのうえにYBCOをコートする手法を用いている。その結果、Ni上では77 K, 0Tで2.0×106 A/cm2の、YSZ上では77 K, 0 Tで8〜9×106 A/cm2の臨界電流密度が達成されている。(Freyheardt)

 また、Y系とBi系におけるピンニング特性に関して、Y系では従来型のピン導入でピンニング特性が改善可能であるが、Bi系では磁束線の性質や異方性にピンニング特性が大きく依存する(T.Matsushita)、Y系ではGeV級の重イオン照射による柱状欠陥に絡み付く磁束によって高Jcが得られる(L.K-Elbaum)、Y系とBi系とでFlux creep の仕方が異なる(J.R.Clem)との報告があった。一方、線材コストに関して、楽観的には10$/kAm(D.C.Labalestier)であるが、基板材料によって18DM/cm2(単結晶基板)、9DM/cm2(セラッミク基板)および4DM/cm2(金属基板)(H.C.Freyhardt)、50$/kAm(Yttria fiber)(G.J.Schmitz)と大きく支配されることが報告された。

 最後に、Tl系線材に関して、CuO24枚で構成されるTlBa2Ca3Cu4O11-δは評価方法に課題はあるものの128 Kの高い臨界温度をベースとして60 K以下の温度でY系を凌駕する高Jc1000 kA/cm2以上を達成した(L.Zhang)との報告があった。(WAGA)

《線材以外のトピックス》

 Wisconsin大学のLarbalestierは、BSCCOとYBCO系導体での臨界電流決定要因について考察を行った。いずれの系でも結晶粒界を通して超電導電流が流れていることは認知されているが、まだその機構自体は明らかにされていない。また、高温超電導体ではミクロからマクロまで、多くの臨界電流決定機構が複雑にからんでおり、それらを明らかにすることが今後の導体開発には重要であるという考えを述べた。

 New-Zealand産業技術研究所のTallon は、高温超電導体は常伝導状態の電子相関によって特徴づけられること、また、Tc以上でみられる擬ギャップの存在は、その起源は必ずしも明らかではないということを指摘したうえで、Y123においてCaのドープ量を変えてキャリア濃度を変えると、Tcが最適化されるにしたがい、擬ギャップが小さくなることが確認されたと報告した。

 Max Planck研究所のBrandtは、薄膜およびストリップに垂直磁場を印加した場合の拡張型臨界状態モデルの適用例について紹介した。特にバルクでは周辺部だけに電流が流れている状況でも、薄膜では試料全体にわたって電流が流れることを紹介した。

 Houston大学のWeinsteinらは、Y123にUを添加すると微細なU化合物が分散し、それだけで臨界電流が2-3倍に向上するうえ、さらに中性子照射するとU化合物からのフィッションによりランダムな柱状欠陥が導入され、臨界電流が1桁向上することを報告した。ただし、不可逆磁場そのものはあまり向上しないことも指摘した。

 Jena低温物理研究所のGawalekらは、直径30 mm、高さ16 mmのシングルドメインYBCOを溶融法で大量生産する技術について紹介し、特性の優れたものでは、77 Kで0.9 T、 12 Kで6.9 Tの磁場を捕捉することを示した。また、最大捕捉磁場は材料の超電導特性ではなく強度によって決定されることを報告した。さらに、バルクYBCOの応用例についても数多く紹介し、ヒステリシスモーターでは6 kWの出力が得られていること、11 m長のレール上をリニアモーターで運転制御した20 kg重量の磁気浮上システムの開発に成功したことなどを紹介した。

 超電導工学研究所の村上らは、最近話題となっている軽希土類系RE123超電導材料の開発状況について紹介した。3種のNd, Eu, Gd(NEG)を混合した系でNEG211相を40 %過剰に添加し、さらに0.5%のPtを添加すると平均粒径が0.2 mm以下の微細なNEG211相が分散し、77K、3T(磁場はc軸に平行)で60000 A/cm2の高い臨界電流密度が得られることを報告した。この系ではピーク効果もみられており、REリッチなNEG123相による磁場誘起型ピニングとNEG211相によるピニングが同時に作用しているものと考えられる。

 超電導工学研究所のAlvarezらは、c軸配向したNd123/Pr123/Nd123積層のトンネル現象を観察し、SIS接合に特有の擬粒子トンネルに対応すると報告した。また、エネルギーギャップとしてBCS型の2D/kBTc=6が得られると指摘した。

 米国Argonne国立研究所のBalachandranは、米国エネルギー省による高温超電導の電力応用に関するSPI(Superconductivity Partnership Initiative)プログラムを紹介し、モーター、発電機、変圧器、ケーブルなど多くのプログラムで予想以上の成果が得られ、次のフェーズへ進むという展望を述べた。

 Max Planck研究所のMajewskiらは、状態図という観点からBi2223相の生成について考察を行った。状態図的にはBi2223相は高温安定相であり、室温で安定ではない。このため、徐冷によりBi2223単結晶を合成しようとしても、分解してしまう。しかし、この不安定性を利用するとうまく析出を利用することができ、磁束ピニング特性を向上させることが可能である。

 Austria大学原子研究所のWeberらは、U235添加した溶融YBCOに熱中性子を照射してフィッショントラック欠陥を導入した試料では、77 Kの臨界電流密度が0 Tで300000 A/cm2、5 Tで10000 A/cm2まで向上することを報告している。ただし、不可逆磁場そのものは変化しない。

 東京工業大学の山内らは、Hg1223および(Cu,C)1223試料においてドープ量を制御しながら臨界電流特性を測定し、一般的傾向としてオーバードープ状態では不可逆磁場が向上することを示した。

 Oslo大学のJohansenらは、高温超電導体で報告されている巨大磁気ひずみの解析を行い、磁束ピニングの大きな試料では磁場の不均一分布により複雑な応力が超電導体に加わり、その結果ひずみ自体も複雑に変化することを示した。この解析は捕捉磁場マグネット応用には非常に重要となる。

 超電導工学研究所の田中は、高温超電導の今後10年間の展望について述べた。研究としては、大きく分類して基礎、バルク、線材、デバイスの4本柱で主に応用を中心として展開していくという展望を述べた。

 Iowa州立大学Ames研究所のClem教授は、高温超電導体の磁束状態について基礎からのレビューを行い、その強い2次元性および異方性によって従来の系とどのような違いが生じるかを分かりやすくまとめた。

 New Southwales大学のAndersonらは、超音波測定でYBCOにおいて230K近傍に相転移が存在することを明らかにした。ただし、この相転移はx線などで検出できず、酸素の配列にからんだものと予想される。

(超研レビ)