SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

14.材料電磁プロセッシングの進展
-低温工学会新磁界工学研究会-

名古屋大学浅井滋生教授講演


 金属分野においては古くから電気エネルギーを用いて溶解や精錬が行われており、電流によって誘起された磁場が溶融した金属の流れに影響を及ぼすことが知られていた。そして、磁場の作用を積極的に活用した、磁気浮揚溶解や電磁撹袢の提案も1930年前後になされている。その後、電磁流体力学の概念を取り入れて、以下に示すような様々な実用プロセスへの応用展開が検討されており、「材料電磁プロセッシング」と呼ばれている。この分野においては、今後の強磁場化による応用拡大が期待されており、それに適した超伝導磁石の開発が望まれている。

1.電磁場を利用した連続鋳造

 伝導性を有する溶融金属の外周に電磁コイルを設置し、交流磁場を印加することによって溶融金属表面に誘導電流が誘起される。図1に示すように、この電流と磁場とで生じるローレンツ力によって溶融金属にはコイル中心に向かう力が働き、側壁がなくても溶融部分が保持される。現在、アルミ材料の連続鋳造は、この原理を用いて鋳型なしで実用的に行われている。また、密度が高い鉄鋼材料の連続鋳造においては、溶融部分の保持が困難であるが、鋳型と電磁力とを併用することにより、表面品質を向上させられる可能性がある。この手法は軟接触凝固法と呼ばれ、実用化した場合には、現在行われている鋳造後の再加熱処理が不要となり、大きな処理エネルギーの節約が期待される。

2.電磁浮揚溶解

 先に示した金属表面に働く電磁力を上方に加えることにより、金属材料を空中に非接触保持することができる。図2に示すコールドクルーシブルを用いることにより、50 kg以上の溶融金属を浮上させることが可能である。この方法により、るつぼからの不純物の混入を心配せずに材料を高温保持することができるため、高融点材料であるThO2の単結晶育成や、シリコンおよびチタンの連続鋳造が可能となる。

3.金属融液の流動抑制

 シリコン等の大型単結晶育成においては、融液の流動を抑制する必要がある。静磁場を印加することにより電気伝導性のある流体の動きを抑制する効果が得られるため、この手法は単結晶製造プロセスに実用的に利用されている。また、2種類の材料を積層鋳造する工程においても、材料同士の相互拡散を抑制することにより2層がきれいに分離して凝固するので、この手法を用いるのが有効である。

4.介在物の分離・凝集

 磁場中で磁場と直行する方向に電流を流すとローレンツ力が働くが、電流を流す材料中に電気伝導度が異なる異物が存在する場合には、その部分だけローレンツ力が小さくなる。その結果、図3に示すように、異物は材料全体がローレンツ力を受けるのとは逆の方向に相対的な力を受けることになる。この力は、電磁アルキメデス力と呼ばれており、材料中の異物の分離除去や析出物を特定の位置に集めることに利用できる。この手法は、例えばAl-Si合金からの鉄やシリコンの分離除去に利用できる。

5.晶出相の配向

 溶融金属から固相が晶出する系に磁場を印加した場合、結晶磁気異方性や形状磁気異方性があると晶出物が配向することがある。例えばBi-4mass%Mn合金では、初晶として、強磁性体金属間化合物であるMnBiが針状で晶出し、5.5 Tの磁場中で形状磁気異方性による配向が見られる。そのほかに、グラファイト粉末の結晶磁気異方性による配向等、多様な系において配向現象が観測される。

 以上に示したような電磁場の応用は、実用的規模の生産ラインに活用できると考えられ、今後の進展が期待されている。電磁力を強めるためには、印加する磁場を強くすることが求められており、超伝導磁石を用いたシステムが注目されている。超伝導磁石を供給するメーカーに対しても、こういった応用用途に適した磁石の開発が要求されるようになってくるものと考えられる。

 電磁プロセシング技術と超伝導磁場発生技術が一体となって、今後の実用用途拡大を推進してゆくことを期待している。

(Quasar)



図1 電磁鋳造の原理



図2 コールドクルーシブルの原理



図3 電磁気力による介在物分離の原理