昨年の発見はPbをBi2.2-xPbxSr1.8CaCu2O8としてx=0.6から0.7(出発組成)程度添加して浮遊帯結晶成長法による単結晶試料で良好な磁場特性が見い出されたものであるが、京大-住電の分析電顕測定によるとx=0.6以上で試料内マクロ組成は飽和し、x=0.7試料ではx=0.41(a相)と0.57(b相)程度の2領域に相分離している。残りは蒸発したものとみられる。透過電顕観察からは数10 nm周期のa相とb相のラメラ構造がb軸に垂直に発生しており、前者にはいわゆるモジュレーション構造が見られるが、後者には無いという。このラメラ構造が面状ピンとなって、さらにモジュレーションのようなより細かい不均質があって、強い複合ピンを与えるものと考えている。
大工研の仕込組成x=0.6Bi(Pb)2212塗布厚膜(ゼロ抵抗Tc=78.5 K)のb c面観察でc軸に垂直な数十nm間隔の筋構造が見える。筋は細かく切断されつつc軸方向につながっているように見えるという。20 K以上での磁場下特性の向上と異方性の減少が見える。ただし、通電Jcは68 A/mm2(4.2 K)とまだ低いという。
日立研のBi1.6Pb0.4Sr2.0CaCu2Oy/Ag16芯線材は従来の同社製法と同様の製法でられたが、数ミクロンの大きなCa2PbO4析出物がファイバー中(Tc=76 K)に見られ、部分溶融-低酸素圧アニール後の4.2 K通電臨界電流は1,100 A/mm2を得た。ただし、磁場劣化は鉛無添加試料より激しく、弱結合の存在を伺わせる。また、30 K以上のピン特性に向上はまだ見られていない。
下山らは、鉛ドープでc軸方向抵抗が1桁減少し、このため、高温超伝導体全体に見られるスケール則、すなわち、異方性パラメーターg2に対数的に依存する不可逆磁場、の関係がやはり成立し、不可逆磁場増大が起きると見ている。これはボルテックスが超伝導揺らぎに対して強くなることに相当する。その上でさらに、ピンの変化が生じるとする。
一方、磁場増大とともに、臨界電流が増大する、いわゆる第2ピーク効果と呼ばれる都合の良い現象が見られるが、為ケ井らはメインピークに加えて、途中にも面状欠陥の周期と関連するピークが存在すること。臨界電流の面内異方性が鉛添加で増大(2.6倍)することなどを見い出している。
高鉛ドープ材料の線材化についての討論では、部分溶融にどのような組織変化が生じていくのかが結局臨界電流を決定するとし、そのキーワードは:生じるCa2PbO4と酸素分圧、無添加で200ミクロン程度の2212相の結晶子サイズの成長が添加で遅くなること、層状端部を覆う不純物相の除去の問題、などが提起された。また、多芯線材は構造的に鉛添加量制御に有利とする声があった。
たしかに、Bi2212における鉛高濃度添加はピン力増大に有効だが、その威力もまだ77 Kには及んでいない。その意味では、Tcの点で有利なBi2223への展開、あるいは、Re-Hg系などの新たな系の検討などがさらにその次の課題として残っているようだ。
(SSC)
図2 高温超伝導体全体にわたって成立すると東大グループの主張するスケール則
図3 鉛添加による異方性係数g2の変化