SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

11.新しいジョセフソン接合設計法を開発
_ NISTとニュージーランド工技院 _


 最近、米国のNIST(National Institute of Standards & Technology)とニュージーランド工業技術研究所が共同で、正確なAC及びDC電圧波形を合成できる新ジョセフソン接合列の実証に成功したことが明らかになった。新しい接合列は、従来のジョセフソン列に用いられているSIS(超伝導体-絶縁体-超伝導体)接合の代りに、SNS(超伝導体-常伝導体-超伝導体)接合から成っている。この新設計により、より大きな電流密度、より小さな接合面積及び1価の電流-電圧特性の実現が可能となり、より広い範囲の動作電流で作動するという。

 最近のAC計測は、AC/DC熱式変換器を用いており、コイルを最初AC電流により加熱し、次いでDC電流により加熱して、AC波形の精密測定において2つの結果を比較する方法を採っている。新しい方法では、いかなる独立のパラメータにも基づかない検出器を採用する。NISTのC.Hamiltonが率いるグループは、量子力学の基本原理から正確なAC信号を直接に発生できる検出器の設計法を案出した。本プロジェクトを担当しているNIST研究員のS.Benzは、"この素子により初めて、AC/DC変換器の単独の較正が可能となる。ディジタル/アナログ変換器として、この接合列は完全に量子化された領域の電圧パルスを発生する。この量子化によって、パターン及び電圧の不規則変化を取り除くことができ、コンピュータ合成ディジタル・コードの理想的スペクトラムを再生するものである。"とコメントしている。

 NISTが設計した新しいジョセフソン接合を用いた回路は、50オーム共平板型導波路の中心導体に沿って形成された単一の8mm長1000個接合列により構成されている。当導波路の終端には、50オームの抵抗が接続されている。接合列への接続は、低域型フィルターを介してなされる。実用計測素子は、10万個接合列を要すると考えられる。今回1000個接合列ではあるが、極めて高い精度と解像度を有するきれいな正弦波出力を発生した。

 当グループは、±1Vの電圧水準を達成するため、接合数と時計周波数を増すべく努力中である。今回の成果が、量子力学的に正確なDC及びAC電圧(バンド巾:0〜1MHz)を発生できるプログラム可能な新しいジョセフソン電圧標準器へつながることを希望している。S.Benzは「新しい設計は、数多くの高周波応用に対しても有用と思う。何故なら本質的に高いS/N比と高安定性を有しているからである。一方、ジョセフソンAC波形発生器を設計する際の課題の一つは、広帯域の信号をクライオスタットへ上手に出し入れ伝送が出来るかの問題である。また、伝送特性とジョセフソン接合列を駆動する入力信号を制御する、と云う困難な問題も残っている」と語った。いずれにしても、画期的な新設計法の誕生であり、今後の進展と時々の成果の公表を期待したい。

(こゆるぎ)