SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 2, Apr. 1998.

1. 大型ヘリカル装置(LHD)の完成と第1回冷却・励磁試験の成功
− 核融合科学研究所 −


 核融合科学研究所において1991年より8年計画で建設を進めていた大型ヘリカル装置(LHD)が完成し、このほど第1サイクルの運転を開始した。

 1998年2月23日に第1回目の冷却試験を開始し、3月17日にヘリカルコイル及びポロイダルコイルの超伝導転移を確認、3月22日に4週間の予冷試験を予定通りに完了した。さらに3月23日から超伝導コイルの通電試験を行い、3月27日にプラズマ中心磁場1.5 Tまでの励磁に成功した。ファーストプラズマ点火を3月31日に予定し、プラズマ真空容器の放電洗浄を行うとともに、プラズマ加熱装置、生成装置、計測装置の総合運転調整が進められた。第1サイクルは、磁場1.5 Tでのプラズマ実験を5月中旬まで行う予定。第1回目の運転から1ヶ月半以上(予冷、加温運転期間を含めると4ヶ月以上)の長期連続運転を経験することになり、超伝導・低温システム全体の信頼性もいきなり問われることとなった。

 LHDは、世界最大のヘリカル型装置として、その実験開始に多くの研究者の期待と関心が集まっている。また、磁場閉じ込めのための総てのコイルを超伝導化した世界初のプラズマ実験装置であり、核融合炉の実現に必要不可欠とされる超伝導技術の応用という観点から、超伝導工学、低温工学関係者をはじめ多くの人々の注目を集めている。

 LHDの超伝導コイルは2本のヘリカルコイル(H1, H2)と上下3対のポロイダルコイル(IV, IS, OV)で構成されている。ヘリカルコイルは、高純度アルミニウムで安定化したNbTi/Cu複合超伝導導体を用い、冷却端安定化した浸漬冷却型コイルとして製作された。複雑な3次元形状のヘリカル巻線を、誤差±2 mm以下の高精度で行うために専用の巻線機を開発し、1コイル当たり450ターン、全長36 km(2コイル)に及ぶ導体の巻線作業には1年半を要している。ポロイダルコイルはNbTi/Cuのケーブルインコンジット導体(CICC)を用いた超臨界圧ヘリウムによる強制冷却型超伝導コイルであり、特に中心直径11.1 mのOVコイルは世界最大のCICCコイルである。また、LHDでは電源から超伝導コイルに大電流を供給する送電線に超伝導バスラインを開発し使用している。超伝導バスラインは9系統あり、最大定格電流は32 kA、総延長は497 mに及ぶ。LHDの実験は第一期(Phase I)と第二期(Phase II)に区分され、第一期では、プラズマ中心磁場を最大3 Tとし、ヘリカルコイルは液体ヘリウムで4.4 Kに浸漬冷却される。第二期ではヘリカルコイルを超流動ヘリウムを用いて1.8 Kまで冷却し、プラズマ中心磁場を4Tまで上げる計画となっている。表1にLHDの主な諸元を示す。

 ヘリカルコイルとポロイダルコイルは電磁力支持構造物に固定され、ベルジャーと呼ばれるクライオスタット内に設置されている。図1にベルジャー内の構成を示す。電磁力支持構造物は2相流ヘリウムによる強制冷却で、コイルと同じ4.4 Kに冷却される。ベルジャー内で4.4 Kに冷却される総重量は850トンに達する。この重量物を冷却し、超伝導状態を維持するための低温システムは、寒冷を発生するヘリウム液化冷凍装置、被冷却体である超伝導コイル、電磁力支持構造物、超伝導バスライン、被冷却体を低温に維持するためのベルジャー(クライオスタット)、寒冷の供給を分配するバルブボックス、トランスファーライン、全体を制御する低温制御システムLHD-TESS)などで構成されている。ヘリウム液化冷凍装置は冷凍能力として、4.4 Kで5.65 kW、輻射シールド用の40〜80 Kで20.6 kW、電流リード用の液化能力として 650 l/hを同時に発生できる日本最大の装置となっている。

 図2に、冷却試験時の寒冷供給温度及びコイル出口温度を示す。冷却は、各コイル内及び電磁力支持構造物内の温度差が50 K以上にならないように寒冷供給温度をプログラム制御して行われた。寒冷供給温度80 K以上では、液体窒素で熱交換した低温ヘリウムガスと常温ヘリウムガスを混合してプログラムされた設定温度の寒冷を発生する。ちなみに予冷期間中に消費した液体窒素の量は125万リットル。80 K以下では、液体窒素の使用を停止し、ヘリウム液化冷凍装置の7台の膨張タービンを順次起動して寒冷を発生する。80 K以下での寒冷供給温度が上下しているのは、初めての冷却試験で、寒冷の供給流量と供給温度の最適値を探っているためであるという。

 通電試験は、3月23日から6日間にわたって順調に行われ、27日に総ての超伝導コイルは安定に、プラズマ中心磁場1.5 Tの電流値(ヘリカルコイル: 6.5 kA、OVコイル: 9.1 kA、ISコイル: 7.9 kA、IVコイル: 7.6 kA)までの通電に成功した。28日に確認のための通電試験を行った後、今までおあずけを食っていたプラズマ実験屋さんにバトンタッチし、ファーストプラズマ点火及び第1サイクルのプラズマ実験のフェーズに移行中。超伝導コイルの定格であるプラズマ中心磁場3 Tまでの通電試験は、第2サイクル実験の終了後(今年の12月以降)に行う予定である。

 「超伝導・低温システムとして、冷却水装置や真空排気装置などのユーティリティも含め、どの装置が故障しても運転の継続が行えない厳しい状況の中で、無事に第1回の冷却・励磁試験に成功することができました。これまで、ご支援、ご協力いただいた多くの関係者の方々に深く感謝いたします」と、開発に携わった核融合研・三戸利行教授はコメントしている。

(TM)



図1 : ベルジャー内の構成



図2 : 冷却試験時の寒冷供給温度及びコイル出口温度



表1 : Major parameters of the LHD