SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 1, Feb. 1998.

4. 生体磁界の三次元計測への挑戦 : 39チャンネルSQUID磁束計を開発
− 東京電機大、島津製作所、竹中工務店 −


 東京電機大学の内川義則教授は、文部省私学施設整備費補助金(研究装置施設整備費)の助成により,島津製作所、竹中工務店と共同して、脳磁界(脳磁図)や心臓磁界(心磁図)などの生体磁界の三次元ベクトル計測ができるSQUID磁束計の開発に成功している。

 これは、磁束検出コイル(ピックアップコイル)として30×30×60 mmの直方体(材質 : TIポリマー)に超電導線(NbTi)を用いて三成分が直交するように巻き、二次勾配型を形成させた構造になっており、一点で磁界の三成分が同時に測定が実現できるものである。脳磁界測定用として3行×4列の曲面上に配列させたもの(写真1)、心磁図用とて3行×4列の平面上に配列させたもの(写真2)で36個のdc−SQUIDに接続され、ノイズ検出用として磁束検出コイルにさらに3個のSQUIDが使用され、合計39チャンネルのSQUID磁束計となっている。したがって、心磁図用には、底面が平面状のLHe冷却用デュワ、脳磁図用には、底面が曲面状になった冷却用デュワの2 種類が用いられるが、SQUID部と磁束検出用コイルは一体化され、この部分が取り替えられるカセット式になっているのが一つの特徴とも言える。これにより12点で同時に三次元磁界計測が実現され、36チャンネルの磁界出力信号が得られる。

 このSQUID磁束計システム開発の責任者であり、以前から生体磁気の三次元計測を提案し行って来た内川教授は「rf−SQUIDで一点での三次元計測を行って来て以来、7年越しの夢が実現し、予算獲得まで長い道のりでした。また、この間、三次元計測の開拓者である大阪大の白江先生を始め、三次元計測の有用性を支持し、勇気づけて頂いた、本学の小谷誠教授,東大の上野照剛教授、北大の栗城真也教授、理化学研究所の太田浩氏、磁束計の製作に我慢強く耐えてきた島津製作所の山田康晴氏や高畑光博氏、シールドルームや支持装置の設計試作を行ってきた竹中工務店技術研究所の山崎慶太氏の協力には感謝しています。」とこの開発を振り返っている。

 現在、世界中の各メーカーの生体磁界計測用SQUID磁束計は、一軸で体表面に垂直な磁界成分(法線成分)を測定するものであるが、本装置は、生体磁界を三次元ベクトル計測ができるもので世界に類を見ず、その特徴は、信号源推定において接線磁界検出コイルは空間分解能を高める構造になっており、信号源の直上で最大感度を持つので、複数信号源の分離や弁別に有用であり、逆問題解析の計算において等価的な信号源の数や向きなどの事前情報(制約条件)が提供できるとしている。また、生体磁気研究の分野において脳磁図や心磁図の三次元磁界信号について、実測を伴った詳細な検討が今まで行われていないのが現状であり、従来の法線磁界信号との比較の上で新しい展開が期待されると言えよう。

 本装置は、新設された生体磁気研究棟(東京電機大学理工学部内 : 埼玉県比企郡鳩山町)内に設置され研究が開始されておりその成果が待たれる所である。

(いそがばまわれ)



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