SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 1, Feb. 1998.

13. 高温超伝導素子の開発計画を発表!
− 独ユーリッヒ研究センター −


 これまで度々本誌上で報じられたように、米国勢の移動体通信基地局用HTSアンテナ / フィルター試作及び実地テストは大変盛んであり(Conductus社、ISC社、SCT社、STI社)、最近日本勢がそれを急追する展開になっており、ヨーロッパ勢の動向が注目されていた。この度、ヨーロッパのこの分野で先頭を行くドイツのユーリッヒ研究センター(FZJ)より、高温超伝導(HTS)素子開発に関して、意欲的な開発計画(プロジェクト)が発表された。

 FZJは、近年マイクロ波技術の商用化分野の内、主として極低温マイクロ波素子の実用化研究に取り組んで来た。この研究開発は、衛星通信発信器用フィルターや衛星通信及び先進レーダー系統中の高速データ伝送用低ノイズ型発振器の設計及び製作を含むものである。ユーリッヒ研は、ドイツ連邦科学・教育・技術省(BMBF)のプロジェクトに対しては、Bosch Telecomと提携し、ECプロジェクトに対しては、フランスのThomson CSF及びTekelecと提携して研究開発を推進している。

 ユーリッヒ研の研究者は、衛星通信発信器用フィルターが最初の極低温要素機器として、ここ1〜2年以内に実用化されると期待している。ユーリッヒ研の低ノイズ発振器は、衛星通信分野の高速データ伝送と先進レーダシステムに使用できるだろう。現在のところ、FZJは衛星式移動体通信用としては如何なる機器の開発も行っていない。

 HTSマイクロ波技術に関するFZJの開発計画は、三つの範疇に分けることが出来る。即ち、(A)HTS薄膜、誘電体、強磁体、V / X族半導体の極低温におけるマイクロ波特性、(B)高電力応用向けHTSで遮蔽した誘電体フィルター及び(C)極低温誘電体共振器に基づく低ノイズ発振器である。 ユーリッヒ研のマイクロ波技術研究(A)は、極低温マイクロ波用材料の基礎に係っている。同研究所のN. Klein博士によれば、超伝導体と共に誘電体、強磁性体、フェライトの特性に焦点を合わせることが重要と云う。事実、多くの誘電材料とくに単結晶は、低温に冷やすとマイクロ波損失が、顕著に低減する。フェライトと強磁性体が調整可能なフィルターと移相器用に開発中である。HTS/SrTiO3多層技術を活用すれば、調節可能なHTS素子の作成が可能となろう。FZJでは、大面積のHTS薄膜の表面抵抗の高周波磁界依存性を研究して来た。サファイア基板上に形成した2インチ径のYBCO薄膜は、40 mT/30 K及び12 mT/77 Kの高周波磁界まで直線性を示したと云う。

 次は、遮蔽誘電体フィルター(B)の開発である。ユーリッヒ研は約105のQ値を持った半球誘電体型二重モード・フィルターを開発している。このような高Q値のため、挿入損失が−0.02 dBの低水準に数10 Wのマイクロ波電力まで維持できることが最近実証された。フィルターの収納体の一部はHTS薄膜で構成されているため、収納体からの損失寄与は無視できる程小さく、共振器のQ値は高い。本フィルターは衛星通信用に適していることを実証した。本フィルターのサイズは若干大きくなるが、HTSマイクロストリップ型よりも大きな電力(>100 W)を取り扱うことができるので、発信器用には最適と云えよう。

 最後は、極低温誘電体共振器に基づく低位相ノイズ発振器(C)の開発である。ユーリッヒ研は、ドップラー式のような高感度レーダーあるいは通信システムの性能を改善できるシステムを開発中であり、また実効伝送スピードを改善する衛星通信リスクの開発も行っている。超高Q値マイクロ波共振器を活用して、他の如何なる技術より優れた低位相ノイズ水準とフィードバック式位相弁別器による高安定性を達成したことを報告している。 Klein博士は「現在研究中の上記素子については、さらにシステム実用化に向けて開発を進める必要がある、特に低温冷却と統合収納化が今後の課題である。近い将来での本素子実用化成功は、低温冷却された超伝導素子の一般的な受け入れへの通行証となろう」とコメントしている。

(相模)