SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 1, Feb. 1998.

11. La2-xSrxCuO4単結晶と60 K YBa2Cu3O7-δ薄膜の固有ジョセフソン効果
− 東北大電通研 −


 固有ジョセフソン効果はGHzからTHz帯の高周波デバイス応用の可能性が指摘されているが、今までのところ、I-V特性でこの効果が明瞭に観測できた材料はBi系酸化物超伝導体だけであった。これは、Bi系材料の異方性が他の材料より際立って大きいためで、電流密度やプラズマ周波数は、Nb系材料を用いる低温ジョセフソン接合とほぼ同じ程度である。

 東北大学電気通信研究所の山下研究室では、プラズマ周波数がTHz帯にある比較的異方性の小さなLa2-xSrxCuO4 (LSCO)や、60K YBa2Cu3O7-δ (YBCO)で10μm程の微小な固有ジョセフソン接合を作成するプロセスを完成し、最近、これらの材料の固有ジョセフソン効果を観測することに成功した。

 同グループはLSCO単結晶上へのジョセフソン接合作製を目的に、プロセス条件の改善により、再現性の良いNb/LSCOジョセフソン接合の作製に成功し、その電流電圧特性上に、LSCOの固有ジョセフソン効果に起因すると思われるブランチ構造が観測された。 接合は山梨大学の兒嶋研究室でTSFZ法により育成したLSCO単結晶(高温正方晶)の001面と100面上に、Nbをヘリコンスパッタにより成膜して作製した。Nb成膜に先立つLSCOの表面処理工程における、アニール酸素圧の条件を最適化することで、接合抵抗を減少させジョセフソン電流の観測に成功した。50μm×50μmの2種類の接合はRSJ的な電流電圧特性を示す。接合の電流電圧特性には、RSJ特性の他に高バイアス領域において電圧に飛びのあるブランチが明瞭に観測される(第1図)。電圧ステップは0.1μmV程度とBi系に比して、一桁以上小さい値を示す。この接合はLSCOメサ上にNb/LSCO接合が重なった構造をしており、高バイアスで観測されるブランチは、Bi系酸化物超伝導体などと同様にLSCOの積層構造に由来する固有ジョセフソン効果と考えられる。

 レーザ蒸着法による60K YBCO薄膜のメサ形接合では、5μm×5μmの大きさにすると、I-V特性にLSCOと同じような多くの電圧ステップが観測できることがわかった(第2図)。しかし、その電圧ステップはmV程度でLSCOとBi系の中間の値となり、電圧ステップは材料により大幅に変わることが明らかになった。このような電圧ステップが、エネルギーギャップに起因するものなのか、原研の町田昌彦氏らの計算による電荷密度波の縦プラズマ振動かは、まだ明らかではない。

 シャピロステップも二つの材料で観測され、ab面内を走る磁束量子のflux flow 現象も計測出来るようになった。同研究室では、ab面内をflux flowする磁束量子の動きを磁界で制御する、flux flow amplifierの実現を第一のターゲットとしている。これらの結果は、3月28〜31日に東京工科大学で開かれる応用物理学会で発表される予定である。

(広瀬川)



図1 : I-V特性 (LSCO)



図2 : I-V特性 (YBCO)