SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 1, Feb. 1998.

10. 高温超伝導の擬ギャップに新事実
− 北大理学部 −


 北大理学部物理学科伊土研究室の小田研助教授らは高温超伝導の擬ギャップに関する実験データからの新説を発表し、話題を呼んでいる。

 低温で観測される、いわゆる超伝導ギャップΔの大きさが、ホール濃度が少なくなるとともに増大し、その値はd波超伝導に理論的に予想される 2Δ/kBT* = 4.3に合致して、T*が観測されるという。このT*は、通常スピンギャップ温度と呼ばれてきた値である。

 したがって、彼等は超伝導の本質は超伝導臨界温度Tcよりもむしろスピンギャップ温度T*に反映されていると見ている。彼等の考えによれば、「超伝導が始まるよりも高い温度T*において、すでに超伝導の本質が開始している。また、その温度T*はキャリア濃度が低い程高くなる」ということになる。このような考えは、M. Oda, K. Hoya, R. Kubota, C. Manabe, N. Momono, T. Nakano and M. Ido ; Physica C 281 (1997) 135−42, に発表されている。同グループはこれまでに、Y123, Y124, Bi2212, La214 でこのような考えに従う結果が実験的に見られると語っている。もしも、このような考え方が正しいとすると、いわゆる擬ギャップは超伝導ギャップと本質的に非常に近いものであることを意味する。

 このような結果は最近の電子分光による擬ギャップと超伝導ギャップの対称性が、いずれもdx2-y2と同一であるとする実験事実とも合致する。 高温超伝導では室温付近から擬ギャップが開いているものが多いが、この観点からすると、室温超伝導といえるものがごろごろしていることになる。擬ギャップが開いても、なぜ、超伝導にならないかは、超伝導メカニズムの考え方に依るところであるが、RVB派の考え方からすれば、いわゆる福山ダイアグラムなどではT*はスピンギャップ形成温度である。すなわち、RVBの概念において二つにわかれた電子の自由度(スピノンとホロン)のうち、スピノンがシングレット対を形成する温度であることが1988年に予言されている。さらに、ホロンも対を形成しないと超伝導にならない。ホロン対形成温度はホロンの濃度にほぼ比例すると予言されている。その意味で、RVBモデル派からすれば、小田らの実験結果のまとめは、「すでに予言しているとおりの結果」といことになるであろう。

 一方、非RVBの立場からすると、擬ギャップではクーパー対(プリフォームド・ペア)が形成され、Tc以下になって初めてコヒーレントな状態になると見る立場がある。この場合には、T*Tcとの間の温度領域は、いわゆる超伝導位相揺らぎ領域ということになる。

 いずれの見方が正しいか、超伝導メカニズムの議論は再び、新たな山場を迎えているようだ。図は、小田らによってまとめられた種々の物質でみられる臨界温度Tcと擬ギャップ観測温度T*、および平均場理論によるd波臨界温度TMFCの間の関係である。しかし、この図に異論を唱える人も多い。

(黒岩)