SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

6. 最高性能の交流超電導マグネット開発
NbTiで100 mmボアに1.6 Tpeak、R & W Nb3Snで50 mmボアに1.91 Tpeak
− 日立電線 −


 高松市で開催された、1997年度秋季低温工学・超電導学会において、日立電線は、画期的な2種類の交流超電導マグネットの開発成果について報告した。

 1つは、Cu-Ni-Mn合金を高抵抗マトリックス材としたNbTi素線12本からの1次撚線を用いたもので50 Hzの商用周波数でクリヤーボア100 mmの空間に中心磁界1.0 Tpeak(到達1.6 Tpeak)を発生させて、連続1時間以上安定に繰り返し運転できたとしている。もう1つは、Nb-Ta/Cu-Sn-Geの組合せのブロンズ法 Nb3Sn素線6本からの1次撚線を熱処理した後コイル成形(React & Wind)したもので、クリヤーボア50 mmの空間に中心磁界1.91 Tpeak発生可能で、これも安定に繰り返し運転できたという。ともに物性研究のためのバイアス磁場発生用として常用できるものであるが、前者はコンパクトかつ大口径、後者はNb3Sn線材の交流応用の可能性を実証した、という意味で世界的にも画期的な成果である。これらの開発研究は、通商産業省工業技術院ニューサンシャイン計画「超電導電力応用技術開発」の一環として新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により、実施してきたものである。

 固溶Mn原子の磁気散乱による近接効果低減効果により、Cu-Ni-Mnを高抵抗マトリックス材に用いた交流用NbTi素線で世界最小の低交流損失を達成している(0.5 Tでのヒステリシス損失は、仏アルストーム社のT型素線の1/8)。今回は、φ0.1μmのNbTiフィラメントをCu-30 wt% Ni-1.35 wt% Mnに埋め込んだ外径φ0.3 mmの素線を12本撚ってコイル用導体とした。コイル諸元は次の通り:クリヤーボア100 mm、巻線内径 124 mm、巻線外径141 mm、高さ250 mm、層数68、ターン数834、インダクタンス39.9 mH。図1は、コイルの負荷特性を示したものであり、直流短尺Icに対し、負荷率82%で到達磁界1.6 Tpeakを達成している。この時の端子電圧は、4,400 Vであった。また、1.0 Tpeak発生時のコイルの交流損失は、6.5 Wであった。  交流用 Nb3Sn素線においても、世界最小の交流損失を達成している。今回は、Nb-Ta/Cu-Sn-Geの組合せの外径φ0.275 mmブロンズ法 Nb3Sn素線を6本撚ってコイル用導体とした。NbコアへのTa添加は変形阻止およびJc向上に有効であり、Cu-SnマトリックスへのGe添加は高抵抗化に有効である。

 Nb3Snのフィラメント径は φ0.28μmと小さいので、線材の歪み特性は著しく改善される。今回は、 Nb3Sn生成熱処理を施した1次撚線を用いてコイル巻線を行っている。コイル諸元は次の通り:クリヤーボア50 mm、巻線内径 60 mm、巻線外径116 mm、高さ140 mm、層数10、ターン数1,257、インダクタンス46.5 mH。図2は、コイルの負荷特性を示したものであり、直流短尺Icに対し、負荷率93%で到達磁界1.91 Tpeakを達成している。この時の端子電圧は、2,760 Vであった。日立電線システムマテリアル研究所の宮下克己氏は、「これまで培ってきた交流用のNbTi、Nb3Sn線材の開発成果をベースに、交流コイル設計製作技術の工夫により、高い負荷率の高性能交流マグネットを開発することができた。今後は、交流機器を念頭においた大容量交流導体の開発を行うことは勿論であるが、交流機器が大容量化する程端子電圧は高くなるので、絶縁技術の開発が非常に重要と思う」とコメントしている。

(World Cup)



図1 : NbTi交流コイルのロードライン



図2 : R & W Nb3Sn交流コイルのロードライン