SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

5. 高温超電導磁石:実用化レベルへ
− 住友電工・科学技術振興事業団 −


 本誌10月号の未確認情報「風呂桶を小さくしたような楕円形をした7 Tマグネット」の全容があきらかになった。住友電工が北京で開催されたMT-15と岐阜で開催されたISS'97で明らかにしたもの。このマグネットは科学技術振興事業団からの委託を受け、Bi系2223高温超電導マグネットを開発し、冷凍機冷却により運転できる形までシステム化し、高温超電導マグネットにおいて世界最高磁場となる7.1 Tの磁場を50 mmの室温空間に発生することに成功したものである。これまでの最高値も住友電工の持つ4 Tであったが、今回到達した磁場によりMRIやリニアなど金属系超電導マグネットで実用化されている応用領域に達したことになる。

 このマグネットはBi系2223高温超電導線材を内径80 mmφ、外径292 mmφの24個のダブルパンケーキで構成しており、使用した線材の総量は12 kmであると言う。コイルを保持しているクライオスッタトの大きさは、高さが536 mm、長径が900 mm、短径が620 mm。マグネット断面は下図を参照。

 住友電工では、Bi系超電導線の長尺化と高Jc化に取り組み、安定化金属部分を含めたオーバーオールJcとしては、既に液体窒素温度(77 K)で10,100 A/cm2と10,000A/cm2を越えた線材の開発に成功しているが、コイル電流密度として10,000A/cm2を目標に長尺線とコイル技術の開発に取り組んできたと言う。今回開発されたマグネットに用いた線材の77 Kでの平均Jcは20,000 A/cm2であり、7テスラ発生時のコイルの電流密度は、7,200 A/cm2と目標にあと一歩まで迫っている。開発された線材はパンケーキ状に巻くことを意識して形状のばらつきを極力抑えた1 km長の線材から使用されており、長手方向のJcのばらつきは20,000 A/cm2に対して標準偏差σで500 A/cm2と、均一な輸送電流特性を持っている、とのことである。

 このマグネットの大きな特徴は、2 T/分の高速励磁が可能であり、金属系超電導マグネットに比べ1〜2桁速いことが挙げられる。また、今回の試験では通電電流が232 Aで7.1 Tを発生しながら24時間連続安定な運転が確認されている。

 冷凍機冷却Bi系2223超電導マグネットの特徴は、

  1. 液体ヘリウムを使用せず冷凍機で20 Kに冷却するのでメインテナンスが簡便。
  2. 20 KにおけるJc-B特性が高いため、コンパクトなマグネットが作製可能。
  3. 20 K冷凍機は4 K冷凍機に比べ冷凍効率が5倍。
  4. 高温超電導線は4 Kと比較して20 Kでは比熱が約2桁大きく擾乱に対して安定であること、としている。
 これらの特徴により高速励磁中の交流損失による発熱に対してクエンチすることなく安定に通電が可能となっている。

 このマグネットは科学振興事業団において、高速励磁が必要な各種反応やプロセスの磁気効果の研究に使用されることになっている。マグネットの開発者の住友電工・超電導研究部の加藤武志研究員は、「マグネットとしては、冷却特性の効率化を目指して、冷却板設置により効果を得ている。また、冷凍機冷却による安定運転の評価・設計技術が確立し、今後の大型マグネットへの基盤が出来た。今まで未開拓の分野での磁気科学への新しいアプローチが始まることを期待したい。」と今後への抱負を語っている。

(フロオケ)



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