SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

3. 小型SRリングで大型放射光施設並みの研究が可能に
− 住友重機械 −


 小型シンクロトロン放射光発生装置(SRリング)(写真1)に、小型SRリングとしては世界で初めて7 Tの超伝導ウィグラを組み込み、臨界波長0.5 nmの短波長放射光の発生に成功した、と住友重機械工業株式会社が発表した。従来、この臨界波長の放射光を得るには大型の放射光施設が必要であったが、小型放射光施設での実現により、放射光利用分野が拡大してゆくことが期待出来ると言う。

 使用した7 T超伝導ウィグラ(写真2)は、NbTi/Cu線材による3対のコイルから形成されており、冷却の簡素化を図るために、酸化物超伝導電流リードと小型冷凍機が用いられている。その特長を次のように述べている。

  1. 小型のヘリウム冷凍機を内蔵し、装置内でヘリウムの循環、液化を行う構成である。そのため、従来必要としていた液体ヘリウムの外部からの供給が不要である。また、液体窒素を予冷時に使用するが、通常運転時は冷凍機で冷却し液体窒素は不要である。
  2. 電流リードとして、小型冷凍機による伝導冷却型のビスマス系酸化物超伝導体を使用しているため、構造が簡単になり、高い信頼性を確保し、侵入熱量が小さくなっている。
  3. 常温から4.2 Kまで急速に冷却するための予冷回路を工夫することにより、冷却効率をあげた設計である。
 冷凍機による直接伝導冷却型の超伝導コイルではないが、ビスマス系酸化物超伝導電流リードと小型冷凍機を活用して、初期冷却や運転の手間を大幅に省く装置に仕上がっているようだ。

 ウィグラ装置の外形寸法は長さ830 mm、幅800 mm、高さ1,400 mmとなっている。冷凍機冷却型の酸化物超伝導電流リードは、内径20 mm、外径23 mm、長さ140 mmの円筒状ビスマス系バルク体で、2対の電流リードを1台の2段式ギフォード・マクマホン(GM)冷凍機によって冷却している。GM冷凍機の1段冷却部と2段冷却部の間、及び2段冷却部と超伝導コイルの間、それぞれに設置され、合計8本の円筒状ビスマス系バルク体が用いられている(写真3)。

 この小型SRリングは「オーロラ−2D」と呼ばれており、レーストラック状の円形部に偏向電磁石を持ち、直線部に7 T超伝導ウィグラが設置されている。SRリングの寸法は、幅3.8 m、長さ12 mと小型である。偏向電磁石からの放射光の臨界波長は1.4 nmで、7 T超伝導ウィグラからの放射光の臨界波長は0.5 nmが得られている。この結果、物質の構造解明の研究用途の観点から見ると、偏向電磁石からの放射光で構造解析できる原子は、一般的に原子番号28番のNiまでの化合物であるが、7 T超伝導ウィグラからの放射光では原子番号42番のMoまでの化合物が可能になるという。

 超伝導マグネットの電流供給導体として酸化物超伝導体は広く普及しつつあり、長期間の使用実績も報告されており、材料としての信頼性が得られてきていると言える。超伝導マグネットを使い易くする要素として酸化物超伝導電流リードの役割は極めて重要になっていると言える。

(cherry)



写真1 : 超伝導ウィグラを組み込んだ小型シンクロトロン放射光発生装置



写真2 : 7 T超伝導ウィグラ



写真3 : 超伝導ウィグラ用の冷凍機冷却型ビスマス系酸化物電流リードユニット