SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

20. 超電導次期プロジェクト(通産省)の骨格固まる


 通産省工業技術院は、昭和63年より産業科学技術研究開発制度の中で「超電導材料・素子研究開発プロジェクト」を電総研他の4国立研究所およびNEDOを通して(財)国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)、(財)新機能素子研究開発協会へ依託し進めてきた。このプロジェクトの終了時期を迎えるにあたり、今後超電導プロジェクトをどうすべきかについて、通産省は産業技術審議会の中の超電導分科会等において様々な検討、議論を行った。その結果平成10年から新しいプロジェクトとして「超電導応用基盤技術研究開発」を実施することとし、現在基本計画を策定中である。

 新プロジェクトは5年計画であり、初年度である平成10年度の研究開発費としては約25億円の概算要求がなされている。実施機関は、今後、公募される見込みである。 なお工技院内では「産業科学技術研究開発制度」から「ニューサンシャイン計画」に移行し、従来プロジェクトの基礎的研究から新プロジェクトは応用基盤技術開発を目指したものとなっている。

 研究開発の内容は大きく二つに分けられる。超電導材料基盤技術および素子基盤技術の開発である。

 材料基盤技術開発は、1)高い捕捉磁界をもつバルク材の開発、2)液体窒素のような高い温度、高い磁界で使える線材の開発、および3)これらの材料開発を支える基礎物性、新材料探索の研究から成る。

 バルク材については、臨界電流密度の向上と大型結晶化により、温度77 Kで3 T以上の捕捉磁界をもつ材料の開発が目標である。線材は、RE - 123系材料を用いた、いわゆる次世代線材の開発が目的であり、77 K、5 Tの磁界で臨界電流密度105 A/cm2をもつ長尺線材を製造するための基盤技術の開発を目指している。基礎、新材料探索では、高温超電導メカニズムや臨界電流を決定している要因の解明、これに基づく高い臨界温度、高い不可逆磁界をもつ新材料の開発がテーマとなっている。

 素子基盤技術の開発は、数10 GHzのクロックで動作する論理回路および記憶回路の実現を目指した、高温超電導体を用いた単一磁束量子(SFQ)デバイスの開発を中心とするもので、演算速度1ピコ秒以下、消費電力1ナノワット以下の高速情報処理用デバイスの開発を目標としている。具体的な研究課題は次の4つである。 (1)大型単結晶基板の開発や成膜、多層化技術の高度化を目指した「素子材料要素技術」、(2)高温超電導ジョセフソン接合を実用的な回路に適用していくための「接合形成技術」、(3)最適なアーキテクチャーを検討し、小規模集積回路の試作、評価を行う「回路化技術」、および(4)超高速のクロック周波数で動作するデジタルシステムの評価ならびに接合特性のばらつきの評価を行う「評価技術」である。

 以上、バルク材、線材については液体窒素温度において電力や交通、製造、医療など様々な分野における高温超電導体の応用を可能とする実用材料技術の開発、素子は、高度情報化社会に必要となる超高速情報処理デバイスの基盤技術開発を目指している。本プロジェクトは、新しい産業の創出だけでなく、将来予想されるエネルギー、環境問題にも関わるものであり、今後の展開が国内外で注目され、成果が期待されている。

(NK)

超電導応用基盤技術研究開発
  1. 超電導材料基盤技術
    1. 超電導材料基礎・材料探索等
    2. 超電導バルク材料要素技術
    3. 超電導線材要素技術
  2. 超電導素子基盤技術
    1. 素子材料要素技術
    2. 接合形成技術
    3. 回路化技術
    4. 評価技術