SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

18. 強磁場と材料科学 - 相変態に及ぼす磁場の影響と磁場による材料組織制御
− 金属材料技術研究所 −


 新しいタイプの材料研究法・組織制御法として、強磁場を利用する方法が注目を浴びている。科学技術庁金属材料技術研究所(金材研)では、極低温で12 T超電導マグネット中で最大荷重2 tの引張試験ができる装置や、無冷媒型の10 T超電導マグネット中で最高1200℃までの加熱ができる装置を作製し、主として固相/固相変態に及ぼす強磁場の影響について調べることに成功した。この成果をもとにして磁場を利用した材料組織の制御についての研究を進めつつある。

 まず、Fe-Ni-C系形状記憶合金を用いて、極低温で強磁場と引張応力をそれぞれ単独に或いは同時に加えた時のマルテンサイト変態挙動を調べた。その結果、磁場と応力を加える順序を変えると、与えられる自由エネルギーの合金は同じであるにも関わらず、変態挙動は大きく変化することが分かった。これはマルテンサイト変態における核生成挙動に及ぼす磁場と応力の影響の違いによる(Materials Trans. JIM, 37 (1996) 1044.、日本結晶成長学会誌、61 (1997) 2.)ことが明らかになった。このような成果は強磁場と応力の影響を同時に受けながら使用される機器の安全性に対する指針を与えることが期待できる。また、これらの結果をもとにして磁場印加により生成するマルテンサイトの核の大きさを計算により求め、マルテンサイト変態において注目されているautocatalytic nucleation(一つのマルテンサイト核が生成することによりさらに新たな核の生成が誘起されること)の寄与の大きさを求めた。これらは長年学会で問題となっている、マルテンサイトの核生成についての重要な知見を与える。さらに、これらの結果を用いて、初めて4.2 Kという極低温で生成するマルテンサイトのアスペクト比を求めた。アスペクト比は、マルテンサイトの成長速度や生成順序、さらには変態の駆動力や母相と生成相の機械的性質と密接に関連しており、変態挙動に関する重要な知識を与えてくれる。これまで77 K以上の温度におけるアスペクト比に関しては膨大なデータがあり、合金系によらず、ほぼ温度の低下とともに直線的に減少することが分かっていた。しかしながら、77 K以下ではこの直線の外挿上にはなく、例えばFe-27Ni-0.8C(mass%)の場合、外挿値よりかなり大きい値になることが分かった(日本金属学会誌、61(1997)、12月号に掲載予定)。

 次に、析出、規則化及びスピノーダル分解が起こるFe-23.3Ni-9.4Al(mass%)合金を用いて9 Tの磁場中で673 Kから973 Kの間の種々の温度で5 h時効を行い、組織観察するとともに磁気モーメントを測定した。その結果、773 Kでの時効を除いて、磁場中で時効した場合の磁気モーメントは磁場を印加せずに時効した場合の磁気モーメントより小さいことが分かった。これは、析出、規則化及びスピノーダル分解のkineticsが磁場印加により変化するためであると考えられる(日本金属学会誌、61 (1997)、12月号に掲載予定)。これらの結果は磁場中でスピノーダル分解させることにより磁気的性質に異方性を持たせるという方法の基礎となる。

 さらに、磁場を利用して材料プロセッシングを行った。すなわち、強磁場中でのゲルキャスト法により、集合組織を持つ層と持たない層を交互に積層させた単相組織を作った。これにより材料の靭性が大きく向上することが分かった(日本金属学会誌、61 (1997)、12月号に掲載予定)。

 さらに今回の成果に関して金材研の大塚秀幸主任研究官は、「強磁場中で熱処理や引張試験ができるようになったことで拡散変態に及ぼす磁場の影響や、磁場中での転位のエネルギー・挙動等が明らかにできるようになり、それらの実験結果をもとにして、組織の微細化・方位制御を図り、材料を強靱化する新しい方法を確立することが期待される」とコメントしている。

(舞蹴冗談)