SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

17. 多チャンネルSQUIDによるMEG研究の現状と将来


 脳研究や脳診断装置として、現在、X線CTやMRIなどの画像装置が脳研究や脳診断装置として用いられている。しかし、これらは、脳の形態的情報を与えることが出来るが、脳の機能的情報はほとんど与えない。最近、機能的MRIが出現し、脳機能を見ることが出来るようになったが、時間分解能が秒のオーダで脳の情報処理をとらえるには不十分である。

 これに対して、SQUIDによる脳磁図計測では、脳内の電気活動をミリ秒の時間分解能、ミリメートルの空間分解能で求めることが可能である。このため、脳内の情報処理の過程を画像としてリアルタイムでとらえることが可能である。超電導現象におけるジョセフソン効果を応用したSQUID磁束計が開発された後、MITのCohenはアルファ波脳磁図の測定に成功した。また、RomaniやWilliamsonらは音刺激による誘発反応において、音の周波数の違いによって反応の位置が異なっている現象を見い出した。また、Hoke、Pantevらは音刺激の大きさによって反応の位置が異なっていることを明らかにした。さらにフィンランドのHariやSamsらは音の認知反応に伴う反応を測定し、発生源の位置を求めることに成功している。

 わが国では、東京電機大・小谷、内川、東大(九大)上野、伊良皆によって脳波では検出されない脳内電源が脳磁図で検出され脳磁図計測の有効性が示された。東京電機大・小谷、内川らは電気刺激を与えたときの体性感覚誘発反応の電源を詳細に解析している。北大・栗城は音刺激における聴覚誘発反応の聴覚野の働きについて、母音と純音との違いについて明らかにした。NTT・今田らは高次脳機能に関連してP300などの測定を行っている。生理学研究所・佐々木は被験者にある課題にあわせて運動を行う場合と行わない場合とで異なる反応が前頭部で現れることを見いだし、運動抑制に関するNo-Go反応を明らかにした。

 現在、測定可能な最も微弱な磁場は脳幹部から発生する磁場であり5 〜 10 fTの大きさをもつ。聴性脳幹反応に対応する脳磁図が、1987年に電総研・賀戸、葛西ら、ドイツのHokeらのグループにより、最近では東大(九大)上野、伊良皆らによって測定された。また、脳内電源推定問題に関して、法政大・斎藤、早稲田大・石山らが新しい電源推定法の開発を行っている。測定技術に関して、大阪大・白江や東京電機大・小谷、内川らが磁場の三次元計測SQUID磁束計を開発し、三次元計測の有効性を示した。多チャネル化に対する近年のSQUID技術の進展には目を見張るものがあり、37チャネル、64チャネル、122チャネルもの多チャネルSQUIDシステムが相次いで開発され、脳磁図の臨床応用も進められてきた。東京女子医大・高倉、東大・大久保らによりてんかん患者のてんかん焦点の同定がなされた。東北大・吉本、中里らは脳障害患者の手術前の脳機能調査の非侵襲的手段とし脳磁図の有効性を示した。九大・山本らは脳腫瘍患者の徐波を測定することにより腫瘍の同定を行った。また、近年頭部全体をカバーするWhole cortexタイプのSQUIDシステムが出現しはじめている。このようなホールヘッドタイプのSQUIDでは、頭のまわりのいろいろな場所の脳磁図情報を同時刻に得ることができるので、各部位での位相のわずかなズレを検出したり、自発脳磁図などの時々刻々変化する脳電気活動を瞬時に時空間的にとらえるのに適している。

 softwareとsystem技術の更なる進歩が望まれる。生体磁気をHigh Tc SQUIDで簡単に測れるようになれば、脳磁図の臨床検査は飛躍的に普及し、生体磁気研究は加速度的に進展するものと期待できる。

(上野照剛)