SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

15. BKBO人工粒界を用いて高性能SISトンネル接合の作製に成功
− 三菱電機先端技研 −


 三菱電機先端技術総合研究所の尾関龍夫氏らのグループは、MgOバイクリスタル基板上のBa1-xKxBiO3(BKBO)人工粒界接合を用いて、従来のニオブ系接合の臨界電流密度を大幅に超えるSISトンネル接合の作製に成功したと秋季応用物理学会講演会で発表した。この研究は通産省産業化学技術研究開発制度の一環として新エネルギー・産業技術総合開発機構から新機能素子研究開発協会を通じて委託された「超電導素子の研究開発」の研究テーマとして実施してきたものである。

 本誌Vol.3No.3(1994)では、名古屋大学工学部早川尚夫教授らのグループと三菱電機児島一良氏らのグループがSrTiO3バイクリスタル基板上のBKBO薄膜を用いて、ジョセフソン電流とエネルギーギャップ構造とが同時に観測できるSIS接合の作製に相次いで成功したことを報告した。その後三菱電機のグループでは、SISミキサなどの高周波デバイスへの適用を目的に、基板を高誘電率のSrTiO3から低誘電率のMgOに変更し、接合特性改善の研究を進めてきた。

 今回発表されたものはMgOバイクリスタル基板(24°)上に作製したものである。図(a)は典型的な接合特性で、リーク電流が非常に小さく、ギャップ電圧付近での電流の立ち上がりもかなりシャープ(鉛系接合なみ)であり、臨界電流密度 = 6.5 KA/cm2IcRn = 4.3 mVが得られている(4.2 K)。また、図(b)は高臨界電流密度を示す特性で、リーク電流が存在するものの臨界電流密度は78 kA/cm2(4.2 K)である。「ニオブ系接合の典型的な値(10 kA/cm2)を大きく上回っており、おそらくトップデータではないか」と同グループ黒田研一氏はコメントしている。今回このような接合特性の改善が実現できたことに関し、同グループ和田幸彦氏は「薄膜成長前の基板前処理の効果が大きい。従来は基板とBKBO膜との間にBaBiO膜をバッファ層として用いていたのだが、成長直前にバッファ層を形成しないほどの極少量のBaBiOをMgO基板にスパッタ処理することで接合特性が劇的に改善された」とコメントしている。

 同グループでは、この接合を用いたSISミキサの試作を予定している。BKBO接合を用いれば10 K以上での動作が可能であり、小型冷凍機が使用可能となる。これは衛星からのリモートセンシングによる地球環境観測に適用する場合に大きなメリットになる。またニオブ系の場合、ギャップ電圧から換算される動作限界周波数は約700 GHzであるのに対して、BKBOの場合は約2 THzであり、より高周波領域での動作が可能となる。国立天文台等では宇宙電波観測用にニオブ系SISミキサを開発し現在実用化段階にあるが、THz領域観測に向けて郵政省通信総合研究所関西支所では窒化ニオブ系ミキサを開発中である。このような応用にはBKBOミキサも有力な候補になるのではないかと考えられる。同グループでは現在準光学方式のSISミキサを試作中で、ミキサ動作の基本であるフォトン・アシステッド・トンネリング現象を270 GHzで観測している。今後どのようなミキサ特性(特に雑音温度)が得られるかに興味がもたれる。

(KWTO)